「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
祖父母の思い出その2
(2009/09/04)
私の頭の中では母方の祖父の最強伝説があります。
何が最強かというと、それはもうストレートに腕っぷしの強さ、格闘技(プロレスごっこ)です。
幼年期の男児ならばプロレスごっこをした経験があると思います。
私も仕事終わりの父と、毎晩のようにプロレスごっこをしていました。
親戚の家に遊びに行けば、『刺客現る』くらいの高揚感と緊張感を持ち、新たな対戦相手として親戚と一戦交えていました。
それで、祖父の何が最強なのかというと、祖父は倒れても倒れても何度も立ち上がる格闘スピリットを持ち合わせており、唯一決着がつかなかった相手です。
毎晩、プロレスごっこをしていた父は、仕事を終えての疲労というハンディがあったにしろ、今思えば10分もしないうちに決着がついていました。もちろん私の全勝です。
時には、あまりにも早く決着がついたため、父に対し『プロレスというものはそんなに簡単に終わっては成り立たない』と子供ながらに異を唱え、誤審だったという形で再試合が行われたこともあります。
しかし祖父は、子供の気分が最高潮に達したタイミングで負けてあげるという暗黙のルールを知らなかったのでしょう。
それとも私が、最弱のレスラーである父との対戦に慣れすぎてしまっていたのか。
もしくは、戦争を生き抜いた世代の父親像というのはこういうものなのか。
祖父との試合は、『猪木vsマサ斎藤の巌流島決戦の再現か!』と思わせるほど長時間に及び、ボサボサに髪を乱しながら立ち上がる祖父の鬼の形相に、恐怖すら覚えました。
あれは演出なのか。あるいは遠慮なく蹴り飛ばしてくる孫に対して、祖父は本当に怒っていたのかもしれませんが。
試合の決着はつかないまま、階下からの祖母の「ご飯よ~」の声で、一旦お預けになったきりだと思います。
遠い記憶ですが、思い返せば思い返すほど、鮮明に甦る祖父の力。戦前男子は強かった。
続いては佐藤さんです。