「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
芸術の秋
寺田 早輪子
(2009/11/24)
子供の頃から、家にある絵があります。
いわき市の渓流「夏井川渓谷」を描いた風景画です。
横は1.5m、縦30cmほどの横長の大きな絵です。
キャンバスに鉛筆で渓谷の風景を描き、それをなぞって硬い鉱物を貼り付け、その上からアクリル絵の具で彩色した絵画です。
渓流沿いの岩は鉱物で表現されていますから、本物のようでした。
清流はキラリと光る白い鉱物で、しぶきが跳ねてくるかと思ったほど。
それは、私の父が描いた絵です。父はその絵を「鉱物画」といっていました。
若い頃、父は絵描きを志していたそうです。
私がほんの子供の頃は、仕事が休みの日には、父はイーゼルに向かい、絵の具だらけのエプロンをつけ、キャンバスに向かっていました。
アクリル絵の具の香りが漂う6畳間で、楽しそうに、でも真剣に絵筆を持つ父を眺めているのが、好きでした。
子供の頃の私が、外でかけっこやかくれんぼをするより、一人黙々とお絵かきをするのが好きだったのは、父の影響に違いありません。
しかし、私が高校にあがる頃には、父はほとんど絵筆を握ることがなくなりました。
その頃は、仕事で疲れて帰ってくることも多かったように覚えています。
「お父さんは、本当は、絵描きになりたかったんだよ。」
私がそう聞かされたのは、父が亡くなったあとのことでした。
父が亡くなる三月ほど前、私は病床の父に、スケッチブックと水彩絵の具をプレゼントしました。
でも、その絵の具の蓋を一度も開けることなく、父は帰らぬ人となりました。
今も実家にある渓流の風景画。
見るたびに切なくなります。
それでも、休日に生き生きと絵を描いていた父の思い出とともに、大事にしたい一枚です。
★写真は梅島アナウンサーと!
今、デスクが隣です!
続いては、「芸術の秋」より「スポーツの秋」?
金澤アナウンサーです。