「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
2011年 秋
佐藤 拓雄
(2011/10/05)
写真は、先月上旬の南三陸町歌津地区で見つけた、ナスです。
「ともに」の先月の放送でもご紹介しましたが、自分でも写真を撮っておきました。
場所は、JR歌津駅の近く、津波で全てを流されたところです。(歌津駅は高台にありますが、その線路さえも流され、復旧のメドはまったく立っていません。)
ナスの後ろに見える建物は、津波の被害を受け、コンクリートの外側だけがかろうじて残った状態です。
がれきが撤去されて、更地になったこの場所で、コンクリートとがれきのわずかな隙間に根を張っていました。
長さおよそ15cm、丸々と大きな実で、いかにもおいしそうに見えました。
ちょっと前に、コンクリートの隙間から出た大根が、「ど根性大根」などと言って話題になりましたが、これは、言ってみれば、「ど根性ナス」です。
もともと生えていたものが、家や線路が流されるほどの津波に耐えたということはないでしょうし、こんな場所に誰かが植えたとも考えにくい。とすると、種か何かが流れてきて芽を出したのか、苗が流れてきて根付いたのか・・・
それにしても、すごい生命力。自然はすごいですね。驚きました。
4月に、名取市閖上で、津波で根元から折れた桜が花を咲かせた話題も放送したのですが、そのときは、生命の力強さを感じる一方で、大地震と大津波という自然の怖さ、それに対する人間の無力さを感じさせられた直後だっただけに、複雑な心境でした。
一方、このナスに関しては、単純に生命の力強さを感じられ、やはり半年という時間で私自身の心境も変化してきているのだな、とも改めて思いました。
ともかく、被災地に、ひっそりと、しかし力強く実をつけていた、ど根性ナス。
「秋茄子は嫁に食わすな」という言葉がありますが、このナスだけは、誰にも食べさせられないなあ、などと思いつつ、現地を後にしました。
明日は、10月で入社丸半年を過ぎた、新人・稲垣アナウンサーです。