「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
クリスマスキャロルが聞こえる頃?
佐藤 拓雄
(2013/12/05)
「クリスマスキャロルの頃に」。大好きな歌手の一人、稲垣潤一さんの1992年の大ヒット曲です。
当時、私は、クリスマスはおろか、世間に目もくれず、ひとり暮らしのアパートに引きこもり、卒業論文をひたすら書いていました。(とか言いつつ、この曲が主題歌のドラマ「ホームワーク」にはハマっていましたが)
年明けの締切に、枚数(約200枚)と体裁だけは整えた、一応の論文を提出。その卒論の口頭試問で、恩師の教授は、私の論文を「正面から行って見事に玉砕しましたねー」と笑顔でバッサリおっしゃいました。そんな恥ずかしい卒論ですが、ともかく、落第にはなりませんでした。
時は流れ、その恩師から、ちょっと前に本を送っていただきました。
「十二単衣を着た悪魔」。脚本家内館牧子さんの書下ろし小説です。
これが実に素晴らしい作品でした。
ごくごく簡単に言うと、就職活動に失敗した二流大学卒の男が、突然「源氏物語」の世界に迷い込み、たまたま手にしていた「源氏物語」のあらすじ本を武器に、平安貴族の世界をたくましく生き抜いていく。その主人公を通して、内館解釈の源氏物語が語られていく、というものです。
ピンときた方もいるかもしれませんが、タイトルは、映画「プラダを着た悪魔」から連想したものだそうです。
意表を突くストーリー展開と男女の情の機微、人間に対する洞察は、内館さんお得意のところでしょうが、同時に私が感銘を受けたのは、内館さんの教養の深さです。「教養がある」とはこういうことを言うんだなあと、うならされました。こんなことを私がのたまうこと自体おこがましくて、恥じ入りますが、とにかく、すごい作品です。久々に小説の醍醐味を堪能しました。
恩師が、この本を私に送ってくれたのは、執筆にあたって内館さんに学術的なアドバイスをなさったからです。内館さんが東北大学大学院で学ばれたことは有名な話ですが、その当時に、私の恩師でもある教授に出会ったということが、あとがきにも記されていました。
私は、いまだ内館さんにお会いしたことはありませんが、こんなことから勝手にご縁を感じ、どこか近しい先輩のような気持ちを内館さんに抱いています。
次は、木下アナウンサーです。