「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
春待つ想い
佐藤 拓雄
(2014/03/27)
震災4年目に入った今月、私のところに、カキが送られて来ました。カキむき用のナイフと軍手つき。
南三陸町歌津でカキ養殖する千葉さんという方からです。
大粒で、濃厚で、旨みの詰まった、すばらしいカキ。
蒸し、バター炒め、汁の三種類でいただきました。
千葉さんは、津波で自宅も養殖施設も失い、ゼロから家業の復活を目指し、ご一家で奮闘しています。
震災発生から一年経った2012年5月に、ようやく養殖を再開しましたが、同じ地区の仲間の漁師さんは、震災後、相次いで養殖をやめてしまい、この地区でカキ養殖を営むのは千葉さんだけになってしまいました。
その後、カキが順調に育つ一方で、カキの処理施設を再建できず、出荷できない状態が続いてきました。
それが、震災発生から丸3年の今年3月11日、ついに出荷にこぎつけたのです。
カキをむいた状態で出すことは現段階ではかなわず、殻付きのままの出荷となりましたが、とにかく、震災後初めてのカキの出荷です。
こう書いてしまうと、あっという間のような印象ですが、この3年、どれほどの思いでこの時を待っていらっしゃったことでしょう。
特に、カキが大きくなりながら出荷できない、という状況の辛さは、察するに余りあります。
何度も、もうだめかもしれない、と思ったそうです。
送られてきたカキは、なんとか復活の資金を確保しようと立ち上げた基金に、支援金を寄せた人への返礼です。当初から基金の半額を返礼としてカキで返す、という約束の基金でしたが、私も、非常に感慨深いものがありました。
震災直後の2011年5月、千葉さんに初めて会って以来、生活再建の道のりを何度も取材させていただきました。苦しい状況の時も、いつも「よく来てくれた」と、ご一家で迎えて下さり、私の家族や仲間のことまで気遣って下さいます。
この春は、そんな心優しいご一家の、再起のスタートラインになりました。
しかし、3年かかって、ようやく、スタートラインです。
生活再建、仕事の再建は、かくも時間がかかって難しいものだと、改めて思い知らされました。
カキと一緒に送られてきた御礼状は、「まだまだ先の見えない状況ですが、家族一同少しずつ頑張っていきたいと思います」と結ばれていました。
明日は、一緒にスーパーニュースを担当している、小口アナウンサーです。