「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
2022年を振り返って
寺田 早輪子
(2022/12/21)
私には、毎年、実りの秋に、美味しい梨とその大らかな笑顔に出会うのを心から楽しみにしていた人がいました。
その方は宮城県利府町の梨農家・引地俊彦さん。今年の春、68歳で亡くなりました。
地元紙などでは「梨作りの名人」とも称され、テレビ各局の取材も積極的に受けてくださっていた利府町の有名人。
様々な品種の梨を手掛けていましたが、中でも「あきづき」という品種は、本当にみずみずしく、甘くて、私は大ファンです。
引地さんに初めてお会いしたのは、15年前、台風9号の被害取材の現場でした。
暴風で収穫間近の梨が落ちてしまった利府町内を取材しようと、梨園に突然訪れた私たち取材班を快く受け入れてくださったのです。大変な状況の中、丁寧に被害状況を説明してくださいました。この時、別れ際に「被害が出た時だけじゃなくて、今度は美味しい梨の収穫も取材しに来てよ」と、笑顔で話してくださいました。心に深く刺さったこの言葉は、一生忘れられません。取材させていただく方の、ただ一時だけの表情を切り取るのではなく、喜びも、悲しみも、色々な表情を見つめて、初めてその人を描くことができるのだと、教えていただいたと思っています。
以来、「今年は美味しい梨ができたから、取材に来てー」、「今日は、病害虫駆除するから、取材に来てー」、「珍しいヒマワリが咲いたから取材に来てー」…と、数えきれないほど連絡をいただき、笑顔の取材も多くさせていただきました。そして、いつも「いらっしゃい!」と大らかな笑顔で迎えてくださいました。
私が育児休暇を終えて職場復帰すると「お子さん連れて遊びに来てー」とお声がけいただき、家族ぐるみのお付き合いもさせていただきました。幼かった息子が初めて梨の収穫を体験したのも引地さんの梨園でした。梨に手が届かない息子を、抱っこして持ち上げてくださいましたね。たくさんたくさん笑い合いましたね。
まるで実家に帰った時のような、故郷のように温かい存在でした。
「病気になった」と連絡をいただいてからも、「また秋に梨を食べに来て」と声をかけてくださいました。
今年の秋。跡を継いだ息子さんと奥様から、例年同様に美味しい梨が届きました。引地さんが大事に守ってこられた梨は、これからも多くの人を笑顔にすると確信しています。
本当にお世話になりました。
大好きな音楽とコーヒーを楽しみながら、どうかゆっくりとお休みください。
☆写真は、今年の秋に引地さんご家族から頂いた梨。引地さんの思い出と一緒に美味しくいただきました。
アナ・ログ、続いては、下山アナウンサーです。