「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ

旅あれこれ
寺田 早輪子
(2023/05/18)


ピエロにお姫様抱っこをされたこと、ありますか?
私…、あります。

あれは20代の夏。ヨーロッパを一人旅した時のことです。当時から美術館巡りが趣味で、イタリアのウフィツィ美術館で、ボッティチェリの名作「ビーナスの誕生」を目の前で鑑賞したい!と前々から願っていました。長期の休みがとれたこともあり、なけなしの貯金を叩いて、いざ!ヨーロッパへ!

フィレンツェに到着したのは昼過ぎ。閉館ギリギリでしたがに何とか今日中に美術館を訪れたいと、駅から駆け足で向かいました。
見えてきたウフィツィ美術館。すぐ手前の広場では大道芸のピエロが大勢の観衆の前で何か芸を披露し、大笑いを誘っていました。とても楽しそうでしたが、迫る閉館時間が気になり、私は目もくれず、美術館入口へまっしぐら!

と、その時!一際大きな笑い声が響くと、フッと私の体が浮いたのです!「えっ!?」と思った瞬間、頬と頬が触れんばかりの近距離に先ほどのピエロの顔が!そう、私は突然、ピエロにお姫様抱っこされていたのです!ピエロは大きな声で「このお嬢さんを川に連れて行っちゃうぜ!」と群衆に向かって叫びながら(たぶん…)、フィレンツェを横断するアルノ川の方向へと私を連れ去りました。
「放せ!美術館に行きたいんだ!」と、私は日本語で抗うも、通じず…。
そのまま夕日の眩しいアルノ川のほとりまで連れて来られました。
ピエロはそっと私を岸に下ろすと、「ごめんねー。びっくりしたよねー。お客さんが喜んでいたからさー、つい、お姫様抱っこしちゃったよー。じゃ!よい旅を!」…というようなことをイタリア語で話し(たぶん…)、どこかへ走り去っていきました。

私の身に一瞬のうちに起きたことを理解するまでに、しばらくアルノ川の夕景を眺めながら、ぼーーーーーっとしてしまいました。
「ウフィツィ美術館にはどうやって戻るのかしら?」と、回らない頭と体で何とか歩き出し、閉館までの約30分間、「ビーナスの誕生」を鑑賞することができました。

フィレンツェ一人旅。「ビーナスの誕生」の素晴らしさはもちろんですが、「ピエロにお姫様抱っこされる」という非日常的で、衝撃的な出来事の思い出が一番強く残ってます。

☆写真は…、フィレンツェで撮影した一枚。フィレンツェのシンボル「サンタ・マリア・デルフィオーレ大聖堂」。こちらの天井画も素晴らしかったです。

アナ・ログ、続いては咲良さんです。


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