「アナ・ログ」
アナウンサーリレーエッセイ
ふるさと
金澤 聡
(2008/08/06)
突然ですが、何をやってもうまくいかない日ってありませんか?
自分が良かれと思ってやったことが裏目になったり、何度も確認したはずなのに間違っていたりとか、負のスパイラルに陥り気付けば溜め息をついているような落胆の一日…。
忘れもしません、ふるさと新潟から上京して2年目の夏。大学の夏休み中、喫茶店でアルバイトをしていた頃。
6畳1Kのアパートで一人暮らし、連日の熱帯夜で寝不足ぎみの日々が続いていました。
目覚めると、時刻は午前7時30分。午前8時開店の喫茶店、ドアトゥドアで30分の通勤時間。この日のシフトは早番です。そうです、間違いなく遅刻です。アルバイト先で『時間を守る男』の評判が上がった矢先の失態です。
慌てて店に到着。午前8時15分。遅刻した汗だくの私を見て、店長が首を傾げます。シフト表を見ると私の勤務は"遅番"でした。何度も確認したはずなのに6時間近くも前に出勤です。しかし、店長の粋なはからいでこの日のシフトを"早番"に変えてもらいました。
店長への恩返しのため働こうと決意しましたが、朝食を摂っていない私の脳はうまく目覚めませんでした。
オーダーミスを繰り返し、レジもうまく打てずお釣りを間違え、早番に変えてもらったのにタイムカードを打ち忘れ2時間タダ働きと散々でした。
一人落ち込む休憩室、そこに無造作に開いてあった週刊誌、室生犀星のあの詩句が書いてありました。
『ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの』
これほど心の琴線に触れる詩句があるのかと思った瞬間はありませんでした。
あのときほどふるさとを恋しく思った瞬間はありませんでした。
しかし、その夏はアルバイトに忙しく、帰省することなく文字通り遠くから思っていました。
次回はどんなふるさとの思いがあるのでしょうか、寺田アナウンサーです。