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【「究極に薄いもの」を作る、という科学】第1回 究極に薄い物質を作ると何ができる?

2015/06/01 10:00


近年の情報社会を支える、高度なコンピュータを中心とする産業では、製品に軽薄短小(けいはくたんしょう)を求める傾向が強い。より軽く、より薄く、より高速で、より小さいものができれば、使う電力や、原材料も廃棄物も少なく済むためエコであるし、高速でデータが通信できれば便利である。また、薄型のテレビやパソコン、タブレット、スマートホンは何より格好がいい。近年、新しく便利なものができる度に古いものが、どんどん置き換わっている。


このコラムでお話したいのは、軽薄短小の中の「薄いもの」を作る、という科学である。

皆さんの身の回りにあるもので、薄くなった電化製品と言えば何だろうか。
最も代表的なのは、テレビだろう。もはや若い世代では箱型のテレビを知らない人もいる。これは、箱形のテレビは画面を表示する部品がブラウン管だったのが、薄い液晶画面の開発によって置き換わったからである。2015年春発売のS社のテレビは厚さなんと0.5cmというから驚きである。他にも、ノートパソコンの初期のものは、厚さが5cm以上あったが、最近は2cmを切るものもある。




しかし、
実はノートパソコンの液晶で表示する部分は、数枚のフィルムからできていて、その厚さの合計が1㎜程度に過ぎない(ノートパソコンを分解したことがある)。

したがって原理的には、ノートパソコンをもっと薄くできるはずであるが、液晶が壊れないためにフレームに入れる必要があり、フレームの厚さ以下に薄くすることは困難だった。


そこで登場するのが、紙のように折り曲げ自由な製品を作ろうという考え方である。

折り曲げ自由なことをフレキシブルという。
すなわち、曲がらないようにするのではなく、多少折り曲がっても壊れないようなフレキシブルなものにしよう、ということである。新聞のように、多少折り曲げても壊れなければ、折りたたんでポケットにいれられるし、落としても壊れにくいタブレットをつくることができる。自由な曲面上にディスプレイができると、いろいろな用途が考えられる(写真1)。



写真1:今にも話し始めそうな、インドネシアのお面に薄いディスプレイをつけることができれば、お面がまるで話しているようなインターフォンを作ることができる。「どなたじゃ」と話しかけられたら、少し怖い。(写真は想像図であり、実現したものではない。)



では、紙のように自由に折れ曲げても問題ない製品を作るにはどうすればよいだろうか?答えは、使われる部品を薄くても強い物質で作ればよいのである。



【プロフィール】
齋藤 理一郎
東北大学大学院理学研究科教授
カーボンナノチューブ・グラフェンの研究を行い、科学研究費・新学術領域研究「原子層科学」の領域代表者として日本のプロジェクトを推進中。
趣味は、家庭菜園、ウクレレ、卓球
研究室:http://flex.phys.tohoku.ac.jp/japanese/
Facebook 原子層科学