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【「究極に薄いもの」を作る、という科学】第2回 物質を折り曲げるとはどういうことか?

2015/06/02 10:00


薄い折りたたみ可能なタブレットを作るには、折り曲げ自由なフレキシブルな部品で製品を作ればよく、そのためにはタブレットの部品を折り曲げ可能な薄い物で作ればよい。


では、折り曲げるとはどういうことであろうか?

例えば、金の延べ棒は人間の力で曲げることはできないが、金箔なら簡単に折れ曲がる。普通、曲がるとは部分的に、ある半径の円筒(球殻)の形に変形することである。この半径を曲率半径という。物の厚さが曲率半径に比べて十分に小さければ、物は簡単に曲げることができる(写真2)。



写真2:アルミ箔(左)は簡単に折れ曲がるが、同じアルミニウムでできている1円硬貨は普通の力では折れ曲がらない。1円硬貨を包んでいるラップは、しわができていてくっついているが、注意深く伸び広げるとラップは折れ曲がっていないことがわかる。アルミ箔とラップの厚さは、髪の毛の太さもしくは紙幣の厚さの10分の1程度(10マイクロメートル=1㎜の100分の1)である。同じ厚さでもラップが折れ曲がらないのは、ラップが分子の集まりでできていて、分子と分子の間は大きな変形をおこすことができるからである。一方アルミ箔は分子でなく原子でできていて、大きい変形に対して原子の配列がずれ塑性変形が起きる。ちなみに市販されている金箔の厚さは、アルミ箔の厚さのさらに100分の1であり、しわはできるが折れ曲がってはいるわけではない。


逆に厚い物質であれば、曲がる部分の外側と内側で大きな変形を伴うので、曲がったとしても外側から裂けるように壊れてしまう。チョコレートを折り曲げて2つに割る様子を想像すればわかりやすい。チョコレートの山と山の間で薄くなっている場所で大きな変形が起こり、割れやすくなっている。

また均質に薄いプラスチックの板や紙は、ある程度の曲げに対してはもとに戻る(弾性変形)が、曲率半径を板の厚さぐらいにしてしまうともとに戻らない変形(塑性変形)が起きる。折り紙を折る感じである。


フレキシブルな製品を作るためには、塑性変形しない、ラップのように自由な折り曲げが可能な電気回路が必要である。
自由な折り曲げが可能な、「へなへなの」電気製品ができると、例えば、足の裏に張り付けて歩行発電したり、体に張り付けて体温や心拍数を測定したりできるようになる。他にも、電気回路の応用可能性が一気に増えることになる。


現在の電気製品の中の回路は、厚さ1㎜ぐらいの板状のもの(プリント基板)に作られる(写真3)。基板上には薄い銅の配線がなされ、トランジスターのような部品が組立られる。したがって基板が多少曲がっても回路が壊れることはないが、基板自身が大きな変形をすると薄い銅の配線が切れてしまう。
代表的な部品である集積回路(ICチップ)も、固いシリコンの基板上に回路が作られる。シリコンの基板は変形しないようにパッケージでおおわれるので、ICチップの大きさが1ミリ程度にも関わらず、パッケージ全体の変形ができないようになっている。

このようなICチップや、部品を支える基板を同時に薄くしたら何ができるであろうか?



写真3:上:プリント基板。基板上に集積回路などの部品がついている。基盤は多少の変形は可能である。下左:ノートパソコンの部品と基板をつなぐ折り曲げ可能な配線。変形しても折り曲げても問題ない。下右:透明な電卓。文字盤、液晶部と太陽電池からなる。よく見ると文字盤のところに薄い回路が配線されている(写真では見えない。)。



~明日につづく~



【プロフィール】
齋藤 理一郎
東北大学大学院理学研究科教授
カーボンナノチューブ・グラフェンの研究を行い、科学研究費・新学術領域研究「原子層科学」の領域代表者として日本のプロジェクトを推進中。
趣味は、家庭菜園、ウクレレ、卓球
研究室:http://flex.phys.tohoku.ac.jp/japanese/
Facebook 原子層科学