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【「究極に薄いもの」を作る、という科学】第3回 折り曲げ可能な電気回路

2015/06/03 10:00


電気回路は固いプリント基板上に組み立てられるが、もし薄く柔軟な基板上に組み立てられれば、基板は自由に変形できる。さらにプリント基板上の配線も非常に薄く作ればその配線も基板と一緒に変形できる。


このようにしてできた電気配線はフレキシブル・プリント配線と呼ばれ、ノートパソコンの折れ曲がる部分であるヒンジ(蝶番、ちょうつがい)の中を通す配線などに使われている(写真4)。

写真4:右:非常に薄いノートパソコンのヒンジ(蝶番)。ヒンジによってキーボードのある本体部分と液晶部分をつないでノートの開閉ができ、また一定の角度で開いた状態を保つことができる。左:このヒンジの隙間の中を、パソコンの心臓部と液晶表示部に信号をやり取りするフレキシブルなプリント配線(黒いリボン状のもの)が通っている。乱暴に扱うと、この配線が切れてしまう。著者は、このフレキシブルな配線を入手し、壊れたノートパソコンを直した。部品の入手先を探すのと、ヒンジの隙間の中に配線がどう通っているかを理解するのにかなりの時間を要した。



フレキシブル・プリント配線上にカーボンナノチューブでできた非常に薄いトランジスターを載せればそのままフレキシブル・プリント回路として使われる(写真5)。



写真5:透明な基板の上にカーボンナノチューブの電界効果トランジスター(FET)を多数設置(透明で見えない)し、FET間を薄い金箔で電極と配線を施した論理回路(名古屋大学大野雄高先生のご厚意による)。


フレキシブル・プリント回路は単に折り曲げられるだけでなく、重さが軽く、平らでない空間にも設置できる利点がある。


フレキシブル・プリント回路は様々なところで用いられていて、これからの発展が期待されている。例えば、第1回で紹介したノートパソコンの液晶の部分の1mm程度の厚さのフィルムは、薄い基板上に映像を表示するための回路が取り付けられたものである。
薄い基板をもっと薄く、そして自由に折り曲げられるほど強くすれば、液晶テレビをシール状にして、車のフロントガラスに貼り付けてカーナビとして使用できるほか、新幹線の座席のテーブルに貼り付けて映像を流すことができる。


一方、この薄くて小さな電気回路は太陽電池(写真3)にも使われている。電卓のように太陽電池で十分駆動できる小さな電力でよければ、フレキシブル・プリント回路に必要な電力を太陽電池でまかなうことができる。



写真3 下右:透明な電卓。文字盤、液晶部と太陽電池からなる。よく見ると文字盤のところに薄い回路が配線されている(写真では見えない)。


光が無くて太陽電池が使えない状況でも、熱電(または圧電)素子といって熱(圧力)から電気を取り出すことができる部品があるので、手にフレキシブル・プリント回路を張り付け体温で発電(足に取り付け歩行で発電)することも可能である。


さらに、もっと薄い究極の物質で回路を作ると、もともとは透明でない物質であっても光を通すことができる。全く透明な電気回路ができるのである(写真6)。


全く透明な電気回路であれば、メガネのレンズに張り付けても前が見えづらくなくなるなどの支障がない。これは、カーボンナノチューブやグラフェンという炭素という元素でできた物質(ナノカーボン)を使って実現できている。次回は、この究極に薄い物質の登場のお話をする。



写真6:カーボンナノチューブの電界効果トランジスターをさらに、透明なナノカーボンで電極配線したもの、わずかに回路が見えるが透明である。このすべて炭素でできた回路は印刷技術で基板上に配線することができる(名古屋大学大野雄高先生のご厚意による)。



~明日につづく~



【プロフィール】
齋藤 理一郎
東北大学大学院理学研究科教授
カーボンナノチューブ・グラフェンの研究を行い、科学研究費・新学術領域研究「原子層科学」の領域代表者として日本のプロジェクトを推進中。
趣味は、家庭菜園、ウクレレ、卓球
研究室:http://flex.phys.tohoku.ac.jp/japanese/
Facebook 原子層科学