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【「究極に薄いもの」を作る、という科学】第5回 究極に薄い原子層物質が創る21世紀の技術
2015/06/05 10:00
このように21世紀の科学は、グラフェンの発見とともに「原子層科学」として大きな展開をしている。
原子層物質を使った薄い物質は、電気回路だけでなく、強くて軽い素材としてもいろいろな用途がある。
例えば宇宙空間で太陽風を受けて動く宇宙ヨットの帆としても、この原子層物質が使えそうである。また、熱伝導度も非常に高いので、熱を逃がす面素材や熱を伝える素材として使える。また、グラフェン(グラファイト)は、磁石に反発するという性質があり、写真のようにN極とS極を交互に並べてくっつけた強力磁石の上で浮上することが可能である。(写真8)
写真8:結晶性の高いグラファイトは、磁石に反発し(反磁性)浮上する。これは常温で測定された写真であり、超伝導体の完全反磁性(マイスナー効果)とは全く異なる現象である。良質なシャープペンの芯も結晶性の高いグラファイトが使われていて、磁石の上に浮上する。1原子層のグラフェンはこの反磁性の効果がより顕著であり、グラフェンを適当な間隔があくように別の物質を挟み、間隔をあけたグラフェンを10万枚ぐらい積み重ねると室温で完全反磁性の物質ができることが期待されている。設計上では10万枚積み重ねても厚さが1㎜もない。
さらに炭素でできた物質として、グラフェンのような2次元の面のような物質の他に、1次元の線(円筒系)の物質であるカーボンナノチューブ、0次元の点(球殻)の物質であるフラーレン、などを使っても非常に薄い物質を組み立てることができる。例えばカーボンナノチューブを海苔のように繊維をお互いに絡み合わせ薄い電界効果トランジスターをつくることができる(写真5,6)。
写真5:透明な基板の上にカーボンナノチューブの電界効果トランジスター(FET)
写真6:カーボンナノチューブの電界効果トランジスターをさらに、透明なナノカーボンで電極配線したもの、わずかに回路が見えるが透明である。
またフラーレン分子をお互いにくっつけて高分子を作ることも知られている。
このフラーレン・ナノチューブ・グラフェンは、炭素でできたナノメートル(10億分の1m)の大きさの人工的に合成された物質であり、まとめてナノカーボンと呼ぶ(図9)。
図9:左上:1次元の物質である、半導体カーボンナノチューブ。終端は半球状のキャップ(中上)と呼ばれるもので閉じている。右上:0次元の物質であるフラーレン分子、閉曲面の形をした分子。いろいろな形の分子がつくられている。下:2次元の物質であるグラフェン、グラファイト(黒鉛)の1原子層。電気を流し、1THzの高周波の信号でも電子が追従可能であるなど、従来の概念を打ち破る顕著な結果が報告されている。フラーレン・ナノチューブ・グラフェンは、炭素でできたナノメートル(10億分の1m)の大きさの人工的に合成された物質であり、まとめてナノカーボンと呼ぶ。
ナノカーボンを組み合わせた、炭素だけで作ったオールカーボンの集積回路も2013年に作られているし(写真6)、原子層の薄さの発光ダイオードも2015年に作られている。多くの若い研究者がこの研究分野に興味をもってチャレンジしてくれることを期待するとともに、究極に薄い物質を使ってもっと何ができるか広くアイデアを問いたい。
さらに興味のある方は参考文献をどうぞ。
参考文献:「フラーレン・ナノチューブ・グラフェンの科学」齋藤理一郎著、共立出版(2015)2,160円(税込)ナノカーボン研究の歴史と研究の最先端、高校生から研究者向けに書かれた最新の本。(右図)
次回は「スリムな体型を目指すなら1975年ごはん!?」です。
配信日程;6月8日(月)~12日(金)
筆者:東北大学大学院農学研究科 都築 毅 准教授
【プロフィール】
齋藤 理一郎
東北大学大学院理学研究科教授
カーボンナノチューブ・グラフェンの研究を行い、科学研究費・新学術領域研究「原子層科学」の領域代表者として日本のプロジェクトを推進中。
趣味は、家庭菜園、ウクレレ、卓球
研究室:http://flex.phys.tohoku.ac.jp/japanese/
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Web:http://flex.phys.tohoku.ac.jp/gensisou/