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【なぜ、神話は滅びないのか?】第1回 神話とは遺言である
2015/06/15 10:00
神話とは宇宙や人類など、世の中にあるさまざまな物の起源を語る物語です。
世界の神話が民族や時代をこえ、人の心をひきつけるのは、なぜでしょうか。
面白いから?美しいから?根源的な物語だから?そうかもしれません。でも、それだけではない気がします。
神話というのは〈滅びの風景〉を描いたものだから、ということを私は考えています。
簡単に言うなら、神話というのは異なる民族同士、異なる宗教同士が出会い、弱い側が滅ぼされる直前に、自分たちの伝承を後世に残したい、という、切なくも強い思いから、書き残した場合がある、ということです。まるで遺言や辞世の句のように——。
「白鳥の歌」という言葉をご存じですか。
白鳥は、死ぬまぎわに最も美しい声で歌うと言われます。自らの伝統が眼前で崩壊していく〈滅びの風景〉を目にした詩人たち。彼らも最後の気力を振りしぼり、戦慄におののきながら、文字を書きつづったのではないでしょうか。
だからこそ、神話は我々の心を打つのだと私は思います。
〈日本人が語り継ぐ神話〉
日本神話にもそんな一面があります。『古事記』序文には、天武天皇の強い決意が述べられています。
「多くの氏族の伝えている物語はまったく真実と違い、誤りに満ちている。今それを改めないと、間もなくその真実は失われてしまうだろう。国家の骨組みにとって大切なその物語を、今こそ編纂しなければ」(『古事記』序文より)。
当時、唐や新羅(しらぎ)といった強力な隣国に対し、日本という国家の正統な立場を示さなくては、という思いもあったでしょう。こうして書かれたのが『古事記』や『日本書紀』などに出ている、日本神話の物語です。
実は8世紀初めに文字化された日本神話は、世界でも特殊です。こんなに早く、体系的にまとめられた神話は、他にはないと言っていいくらいです。
しかし失われた伝承もあります。同じ時期、諸国にまとめさせた『風土記』のうち、きちんと残っているのは出雲(いずも)、播磨(はりま)、常陸(ひたち)など数えるほどしかなく、大部分は行方不明です。いったい、どこへ消えてしまったのでしょう?
理由はよく分かりませんが、中央政府の考えに合わない伝承が含まれていたために、抹殺されたのかもしれません。ローカルな神話の中には、文字通り「滅びて」しまったものも、残念ながらあるのです。
次回は「第2回 ゲルマン人の心の叫びが神話となる」です。
配信日程:6月16日(火)午前10時ごろ予定
【プロフィール】
山田 仁史
東北大学大学院文学研究科准教授
宗教民族学の立場から、人類のさまざまな神話や世界観を研究中。
著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)がある。
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