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【なぜ、神話は滅びないのか?】第2回 ゲルマン人の心の叫びが神話となる
2015/06/16 10:00
ラグナロク、ワルキューレなど、最近ネットでも目にする言葉。ゲルマン神話は現代日本でも人気のようです。それが今日まで残っているのは、キリスト教勢力に呑み込まれていく断末魔の、ゲルマン人の心の叫びが我々の胸に響くからかもしれません。
そもそもゲルマン人は、文明の進んだローマ人から見れば北方の野蛮人でした。でもそこに、だんだんとキリスト教が入っていきます。
そうした中、オージンを最高神とするゲルマン神話は敵視されて失われたり、変化していきました。ところが、比較的遅くまで保存されていた国があります。
アイスランドです。
もとは無人島でしたが、移住した人たちによって929年に建国、ちょうど紀元1000年にキリスト教を国教として受け入れました。
このキリスト教の力に、脅威をおぼえる詩人がいました。その名前は知られていません。書かれた時期も正確には不明ですが、およそ紀元800年から1100年ころ、まとめられたゲルマン神話が『古エッダ』です。
『古エッダ』の冒頭に置かれているのは、「巫女(みこ)の予言」という66節から成る詩。語り手である一人の巫女が、眼前に繰り広げられる幻想的な風景(ビジョン)を歌い上げます。まず太古の世界、そして現在、それから未来というように、巫女の言葉はだんだんと壮絶さを増していきます。
そしてついに、ゲルマン世界の神々は滅びます。
いわゆる「神々の黄昏(たそがれ)」、ラグナロクです。
「太陽は暗く、大地は海に沈み、きらめく星は天から落ちる。煙と火は猛威をふるい、火炎は天をなめる」(57節)。
けれど、これで話は終わりません。いったん滅びた後から、常緑の大地がふたたび浮かび出るのです。
そして謎めいた言葉——
「そのとき、すべてのものを統(す)べる強き者が、天から裁きの庭におりてくる」(65節)。
この強き者とは誰なのでしょう?イエス・キリストを暗示しているとも言われます。
その後、ヨーロッパの知識人はゲルマン神話のことを長らく忘れていました。理性こそが大切だという考え(啓蒙主義)が主流になったからです。
しかし18世紀後半、反発が生じます。
いや、人間には理性だけじゃなく感情だって大事じゃないか!というロマン主義のかけ声のもと、ゲルマン神話が再発見されました。そして、これこそ我が民族の心のふるさとだ、という意識が高まって、広く知られるようになり、やがてその波は全世界に達したのです。
次回は「第3回 神話で民族のルーツをたどる」です。
配信日程:6月17日(水)午前10時ごろ予定
【プロフィール】
山田 仁史
東北大学大学院文学研究科准教授
宗教民族学の立場から、人類のさまざまな神話や世界観を研究中。
著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)がある。
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