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【なぜ、神話は滅びないのか?】第3回 神話で民族のルーツをたどる
2015/06/17 10:00
フィンランドと聞いて、何を思い浮かべますか?ムーミンでしょうか。実は『ムーミン』は、スウェーデン系フィンランド女性のトーベ・ヤンソンが、もともとスウェーデン語で書いた作品。
スウェーデンとロシアという強国にはさまれたフィンランドは、文化的にも政治的にも、両国の影響を受けてきました。
こうしたフィンランドの民族意識の核が、『カレワラ』という国民的叙事詩です。
これが書かれたのは、まだロシア領だった19世紀前半のこと。エリアス・リョンロットという医師が、地方の農民たちのもとを訪ねては伝承詩を採集し、編集して、1835年にフィンランド語で『カレワラ』(カレワの勇士たちの国)と題し出版しました。
前回ご紹介したように、当時のヨーロッパ各国は、民族のルーツ探しに夢中でした。
ロシアの圧政にあえぐフィンランド人も、自分たちの心のふるさとを渇望していたのです。リョンロットもそうした一人。田舎の村々で、ひっそりと歌いつがれていた民謡に、大昔からの伝説が残されていることに気づいたのです。
『カレワラ』の冒頭は天地創造からはじまります。
「はるか太古の昔、大気の娘イルマタルは海の上を漂っていました。すると一羽の鴨が飛んできて、乙女の膝に巣を作り、6つの卵を産みつけました。イルマタルは膝が熱くなり、足を引き寄せると卵は水中へ転げ落ち、砕けて破片になりました。すると卵の下部は大地となり、上部は大空に、黄味は太陽、白味は月になった」といいます。
実はここには、キリスト教の要素も入りこんでいます。イルマタルというのは、聖母マリアをモデルにしてリョンロットが作りあげたもの。また『カレワラ』の結末部では、異教を体現する呪術師ワイナミョイネンが、新しい信仰つまりキリスト教の到来を悟って、舟に乗りどこへともなく去って行きます。
このように、『カレワラ』はキリスト教により滅ぼされたフィンランド人の信仰世界を描いています。
その一方、この作品は民族の心の支え、希望の物語となり、1917年ロシア帝国からの独立へと導くのに多大な刺激を与えました。フィンランドの作曲家、特にジャン・シベリウスなどは、『カレワラ』に影響を受けた音楽を多く残してもいます。
そして今でも、『カレワラ』の初版が刊行された2月28日は国民の祝日になっており、盛大な記念祭が開かれています。
次回は「第4回 マヤ神話の数奇な運命」です。
配信日程:6月18日(木)午前10時ごろ予定
【プロフィール】
山田 仁史
東北大学大学院文学研究科准教授
宗教民族学の立場から、人類のさまざまな神話や世界観を研究中。
著書に『首狩の宗教民族学』(筑摩書房、2015年)がある。
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