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【ゲノムと社会】 第3回 ゲノム医療と社会の課題

2015/08/05 10:00


ゲノム医療が広く実現するようになると、社会全体で考えていかないといけない課題がある、と前回書きました。いろいろな面がありますが、ゲノム情報というものが、一人の人について生涯不変で、また情報の中身は親兄弟と部分的に共有し、そして、その人について何かを予測できることがある、ということに起因するものです。例を挙げながら、見て行きましょう。


アンジェリーナ・ジョリーさんという女優さんが、ゲノム情報に基づき乳房予防切除を行った、というニュースが世界を駆け巡ったのは数年前。皆さん、ご記憶でしょうか?

さて、ジョリーさんは、お母さまを乳がんで亡くされて、その要因がご自身にも遺伝しているか知った上で対応されたい、と考えられました。そして、検査の上で、ご自身のゲノム情報に、乳がんなどを起こしやすいとされる情報が受け継がれることが確かめられ、乳房の予防切除を行うと、その起こしやすさを劇的に減らすことができるということから、手術に踏み切られました。


この例でもいろいろな課題があります。ジョリーさんのように「知りたい」とは思わずに「知りたくない」ということも許されるのでしょうか?その情報を知ってしまったら保険会社に言わないといけないのでしょうか?保険会社はそのことで保険料を上げてもいいのでしょうか?知った上で予防切除などの受ける治療には保険はきくのでしょうか?高額な自費の治療だけだったら、知った上で対処できる人は一握りになってしまうのでは?本人は「知りたい」と思っても、その人の子どもが「知りたくない」場合にはどうするの?などなど。


これまでできなかったことをできるようになることで社会の側も対処が求められます。



次回は「第4回 病気が発病する確率がわかる?」です。

配信日程:8月6日(木)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

長神 風二

東北大学東北メディカル・メガバンク機構特任教授

科学と社会の接点を考えつつ、大規模なゲノム研究の広報にも携わる。

著書に『予定不調和 サイエンスがひらく、もう一つの世界』(DIS+COVERサイエンス)(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2010年)がある。