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【5日間で「名コーチ」に変身するレシピ】1日目 心の中に潜むブレーキ(先入観)を取り除く・・・視点を変える
2015/09/14 10:00
<はじめに>
人に教えることを難しいと思ったことはありませんか。5日間、このコラムをみていただければ、そうした悩みもすっきりしますよ。
仕事をしている時、勉強をしている時、スポーツに打ち込んでいる時、子育てをしている時、趣味に没頭している時に、こんなことをふと思うことはありませんか。
「会社で、部下や後輩に仕事のやり方を教えようとしても、なかなか思うように伝わらない。人材育成のコツは何だろう?」
「勉強で、相手がちゃんと理解できるようにうまく教えられない。教え方のコツって何?」
「スポーツで、相手のくせをなおすことが難しい。どうやったら相手の動きを修正することができるのか?」
「家庭で、子どもをやる気にさせるのがたいへんだ。どうしたら子どもが自分からがんばって取り組めるようにできるのか?」
このように、私たちは上司や先輩、そしてコーチや親からの指導を受けて学び成長していきます。ところが、いざ、自分が指導する立場になった時、どう指導したらいいかよくわからない、といった壁にぶつかります。それは、「どう学ぶか」という「学び方」については学ぶ機会があるのですが、「どう指導するか」という「教え方」については学ぶ機会がなかなかないからです。
このように、教えることは難しいのですが、ビジネス、スポーツ、音楽、芸術、科学、教育など、様々な場面で、相手をうまく伸ばして成功に導いていく指導力を発揮する人々もいます。こうした人々は、どのようにしてそうした指導力を身につけてきたのでしょうか。
私は、コーチングをキーワードにして、こうした疑問の解明に取り組んでいます。これまで300人以上のエキスパート・指導者の方々にインタビューをさせていただき、かれらは何が優れているのか、かれらはそうした卓越性をどのように身につけてきたのか、について明らかにしようと取り組んできました。このコラムでは、そうした知見をふまえて、5回にわたって、皆さんが名コーチに変身するレシピを紹介しようと思います。
<1日目>心の中に潜むブレーキ(先入観)を取り除く・・・視点を変える
きょうのポイントは自分が相手に対して先入観や思い込みをもたないで接することです。例え相手が失敗しても、今できなくても、ダメな人、できない人と決めつけないことです。
まず初日は、よい指導の妨げになっている先入観を取り除くことから始めましょう。
優れた成果を残している人々に共通するポイントとしてまずあげられることは、「先入観や思い込みをもたない」ことです。
言い換えれば、相手や状況について、ありのままを自分の目でじっくり見て判断するということになります。その根本にある指導価値観は、「指導的なかかわりによって学ぶ人は大きく変わる」というものです。つまり、相手の才能にとことん期待してそれを伸ばそうとする姿勢が徹底しているのです。そしてこうした姿勢は指導者自身にもあてはまります。教える立場の人々もまた指導者として成長し続けている、ということができます。
さて、冒頭ででてきたいくつかの問いは全て「何が(what)」と「どのように(how)」を問うものです。現状を振り返り、問題点や課題に気づき、自分をもっと変えていく出発点になる、とても大切なつぶやきです。
そして、最も大切な問いかけがその次に来るはずなのですが、なぜか、そこで後戻りしてしまいがちです。例えば、こんなふうに考えてしまいませんか。
「あの人はまたミスをした。仕事の才能がないな。指導しても無駄かも。」
「あの人の成績が伸びないのは、かれに才能がないからだ。教え方の問題ではないな。」
「あの選手はいくら教えても上手にならない。才能がないから教えても伸びないのさ。」
こうした考え方があると、教える言動にもそれが現れてしまい、問題解決に向かうことはできず、あきらめることしかできなくなります。そしてその結果、相手も、そして指導者自身も成長から遠ざかってしまいます。
なぜなら、これらは全て「だって(because)」の結論であり、うまくいかないことを才能のせいにして納得してしまう言い訳に過ぎないからです。
こうした考え方については、心理学では原因帰属の問題として扱われます。これは、物事が起こった原因をどこに求めるか、という、言わば、何で言い訳をするか、ということです。図1は、原因帰属のパターンを4つ示しています。
左右の軸は自分以外のせいにするか(外的)、自分のせいにするか(内的)、を示しています。縦軸は、変わるものか(不安定)、変わらないものか(安定)、を示しています。
例えば、きょうの試合で負けたのは「運が悪かったから」という言い訳は、外的で安定な原因帰属になります。「ゴルフのクラブが悪いから」「風が強かったから」という言い訳は、外的で不安定な原因帰属になります。こうした外的なことに言い訳をもっていっても、あまり問題解決には結びつきません。自分の側に何らかの課題があったからという言い訳にもっていくことが大切です。
なぜなら、問題解決は自分の行動によって解決に迫り、自分がコントロールする中で進めていくことが求められるからです。
ただし、言い訳を自分の方にもってきても、「素質がないから」「才能がないから」という、内的で安定な原因帰属でも、問題解決は進みません。自分の課題は、自分の努力で改善できる内的で不安定な原因帰属がとても重要になるからです。
つまり「アプローチショットの精度をあげる練習が足りなかったから」「指示した書類の出来上がりのイメージを共有できていなかったから」「提出期限を具体的に提示していなかったから」というように、次の「何を(what)」「どのように(how)」という問いに結びつく考え方を習慣化し、具体的な行動によって困難な状況を克服していくようにしましょう。
冒頭であげた例の場合でしたら、次のような問いかけをしてみてはいかがでしょうか。
「いい指導をしている人の行動を観察してみようかな?」
「○○に関する勉強が足りなかったかもしれない。もう少し〇〇の勉強に時間をかけてみように指導しようかな?」
「上手な人からアドバイスをもらって、もっとフォームの改善をしてみようかな?」
「子どもへの言葉がけの仕方を再点検してみようかな?」
実際に、高校サッカーの全国大会で何回も優秀な成績にチームを導いた経験をもつ名監督に、負けてしまった試合後にお話をうかがった時、次のような話がありました。
「人のせいにしないね。自分のせいにする。自分が悪いと。練習を変えるとか、練習の仕方を変えるとか、そうして切り替えていかないと。人のせいにするなんて簡単。あいつが悪いとか選手が悪いとか。きょうの試合が悪いとか。それは自分が悪い、監督が悪い。今日の試合は監督が悪いんですよ」。 (サッカー全国優勝監督)
コーチングというと、どうしても技法やテクニックに目が向きがちです。けれども、まず大切なことは、そうした技法の前提となる考え方、つまりどこまで相手に期待できるか、という指導観をきちんともつことです。
<きょうのまとめ>
さて、きょうの話をまとめてみると、「よいコーチ」のコツとして次の3つがあげられます。
1.指導する相手に対して、ダメだ、できない、失敗する、素質が無い、手遅れだ、という先入観や思い込みを捨てる。
2.相手の具体的な行動によって解決を目指すようにする
3.相手の力を信じて期待する
<きょうの宿題>
・きょう一日の終わりに、「ミスしたこと」「うまくできなかったこと」「できたこと」をふり返り、全て自分に原因をもっていく。
・それを、「こういうやり方がよくなかったから」「これをもっと準備しておかなかったから」「このやり方がよかったから」という言葉で説明をする。
・説明をしたら、うまくいかなかったことについては、「明日はこうしてみよう」という言葉にして、具体的に改善する行動をメモに書く。
参考文献:北村勝朗著「300人の達人研究からわかった上達の原則」CCCメディアハウス 2015年
次回は「第2日目 ゴールのイメージを実感する(ゴールの達成感にしびれる」です。
配信日程:9月15日(火)午前10時ごろ配信予定
【プロフィール】
北村勝朗(きたむら かつろう)
東北大学大学院