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- 【機能性ヨーグルトのひみつ】第5回 研究室で進めている新機能性ヨーグルト研究
【機能性ヨーグルトのひみつ】第4回 最近話題の機能性ヨーグルトLG21, R-1, PA-3とは?
2015/09/24 10:00
〈増える機能性ヨーグルト〉
日本のヨーグルトの市場規模は、年間約4000億円にも達し、常に右肩上がりの順調な成長を遂げています。カップ物の機能性ヨーグルトは、一個100円程度の価格ですが、いかに全国の多くの方々に食べられていることが良くわかります。日本の機能性ヨーグルトの代表的なものは、図1の左からブルガリアヨーグルト(明治HD)、ビフィダスヨーグルト(森永乳業)およびナチュレ恵(雪印メグミルク)などがあります。これらの3つのヨーグルトは、消費者庁から「トクホ(特定保健用食品)」の認可を受けているとても優れたヨーグルトで、“おなかの調子を整える”という保健効果が臨床データにより認められています。また、これらの効果は、製品の表面ラベルに健康表示(ヘルスクレーム)をすることが許されています。
〈ヨーグルトに沢山含まれる乳酸の強さの秘密〉
乳酸菌やビフィズス菌が乳中で増殖して作り出した乳酸や酢酸が、ヨーグルトには沢山含まれています。これらの有機酸は、ヒトが摂取すると腸内細菌によりさらに利用されて「酪酸」にまで変換され、腸内pHをさらに下げて病原菌を排除します。また、これらの多量の酸は、もともと腸内にあったものではありませんし、酸ですので水素イオンを出し腸管を刺激します。そのため、酸を希釈するために水分も腸管内に呼び込まれます。それにより、腸管の蠕動運動はさらに活発となり、水分量が増えることでスムーズな排便につながり、優れた整腸作用を発揮するわけです。
〈胃がんの原因菌であるピロリ菌を撃退する機能性ヨーグルト〉
さて、日本で一番売れているカップ物の機能性ヨーグルトは何でしょうか?それは、明治HDから2000年に発売された「プロビオヨーグルトLG21」です(図2)。累計販売数は約55億個とされています。製品では、明治の保有する約2,500種類の乳酸菌ライブラリーから選抜されたガセリ菌のLactobacillus gasseri LG21が使用されています。ガセリ菌はヒト腸管には比較的多く棲んでいる乳酸菌の一種で、善玉菌です。
この菌は、ヒト胃内の表層粘液層に結合し、迅速に増殖して乳酸を沢山作ることにより、胃内のピロリ菌(Helicobacter pylori)をやっつけてくれます。摂取を続けることで実際に胃内のピロリ菌数が減少し、出血などの炎症も抑えられたデータがあります。
ピロリ菌は、WHOも胃がんのリスクファクターとして認めた病原菌です。日本人の40歳以上の方の70%以上はこの菌に罹患しているとされ、最近では発見されると医師から抗生物質による除菌を勧められる危険な菌です。胃酸の少ない6歳前に罹患すると、一生胃内に棲み付く恐ろしい菌です。ヨーグルトで菌数を減らすことが出来ることは、朗報です。最近では、一次除菌で失敗した方が抗生物質を変えて二次除菌する際に、その成功率を高めるヨーグルトとして有名です。
〈風邪やインフルエンザの罹患率を下げる機能性ヨーグルト〉
また、明治HDからの「R-1ヨーグルト」も有名です。こちらは、小中学生がこのヨーグルトを半年間飲み続けた結果、インフルエンザの罹患率が大幅に減少することが証明されました。ヨーグルト製造に使用された乳酸菌のブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus R-1)は、菌体の外に機能性の多糖を作ります。これは、菌体外多糖(EPS)とも呼ばれます。この多糖は小腸から吸収されると、免疫系を刺激してインターフェロン・ガンマというタンパク質を作り出し、リンパ球の一種のナチュラルキラー細胞を活性化することで、ウイルスを殺してくれます。この多糖にはリン酸基が結合しており、免疫系を刺激することが分かっています。
このヨーグルトを食べ続けると、インフルエンザにかかりにくくなるようです。このヨーグルトがNHKの朝番組で紹介されると、店頭ではなかなか手に入りにくくなり、仙台市内のスーパーでも「お一人様一本限り」の時期が長く続いた記憶があります。受験シーズンとインフルエンザの冬のシーズンと重なったことも原因でした。
〈血液の尿酸値を下げ通風を予防する機能性ヨーグルト〉
また、明治HDからの「PA-3ヨーグルト」も最近話題です。血清尿酸値が高まり痛風を心配されている方向けの商品であり、製品では乳酸菌の一種であるガセリ菌(Lactobacillus gasseri PA-3)が使用されています。プリン体には3種類ありますが、この菌はヒトが腸管で吸収しにくい「プリン塩基」にまで分解してくれ、しかもガセリ菌自身が取込んで栄養源にするという優れものです。このヨーグルトの摂取により血清中の尿酸量が減少すれば、痛風の発症危険性が減少することになります。薬事法上の問題で、痛風という疾病について明確には製品には記述できませんが、購買層はかなり理解して購入されそうです。これからは、この様に購買層を限定したり特定する「特殊機能性ヨーグルト」が販売されるかもしれません。
〈優れた乳酸菌は自然界から選ぶ。遺伝子改変はタブー〉
私たち研究者は、星の数ほどある乳酸菌から、いかに優れた性質の菌を選んでくるかが腕の見せ所なのです。良い菌に巡り会えるという幸運もあると思います。ヨーグルトは乳酸菌を直接食べる食品ですので、いかに研究室で優れた乳酸菌を遺伝子改変で作り出すことは出来ても、その遺伝子組替え乳酸菌をヨーグルトに使用することは決して出来ません。私の研究室でも、自然界からいかに優れた乳酸菌を見つけるかに命をかけているわけです。遺伝子工学を駆使してスーパー乳酸菌を作り出すのは、近年では比較的簡単なことなのですが。良い菌の選抜にはとても時間のかかる研究となります。
〈普段から新発売の機能性ヨーグルトに注目〉
消費者の皆さんは、スーパーなどの店頭で新発売されるヨーグルトについての情報発信に、常に注目して頂きたいと思います。また、インターネットや新聞などの情報も重要です。友人からの口コミ情報も無視できません。これらの情報が不足すると、優れたヨーグルトに出会うチャンスも生まれません。是非とも、健康とヨーグルトについて普段から関心を持ち続けて頂ければ幸いです。
次回は「第5回 研究室で進めている新機能性ヨーグルト研究」です。
配信日程:9月25日(金)午前10時ごろ配信予定
【プロフィール】
齋藤 忠夫(さいとう ただお)
東北大学大学院 農学研究科教授
より優れた乳酸菌を用いて新機能性ヨーグルトの開発に取り組んでいる。
著書には『畜産物利用学』(文永堂出版、2011年)他、30冊がある。
趣味 ピアノ演奏