戻る

仙台放送NEWS

検索


【48年目に一斉に咲いたタケ~植物がもつ「時計」の生態学~】第1回 一生に一度、一斉に咲くタケ

2015/10/05 10:00

タケは日本人にとって身近な植物の一つでしょう。タケノコとして食べられるモウソウチクや、竹細工によく使われるマダケなど、日本には200種類以上、世界には1000種類以上のタケの仲間があると言われています。

比較的温暖で湿潤な地域に多く分布し、地下茎を伸ばして旺盛に成長するので、近年では放置された竹林が広がって里山を覆い尽くしてしまうなど、特に西日本で大きな問題になっています。


またタケの仲間は、いわゆる「最期にひと花咲かせる」植物です(図1-1)。


図1-1 インドで48年ぶりに咲いたナシタケ(メロカンナ)の花(左)と若い実(右)。


例外はありますが、数十年から100年以上もの長い間、少しずつタケノコを出しながら増えていき、最期に一度だけ咲いて枯れてしまうのです。このとき、しばしば竹林全体・地域全体という広い範囲で、一斉に花が咲いて枯れてしまうのが特長です。


もちろん子孫を残すため、花は実を結び、種子をつくります。種子は芽を出して育っていきますが(図1-2)、親が枯れてなくなってしまうことで、その場所に十分に光があたるようになり、親は子どもに良い環境を用意してその土地を明け渡すのです。そのおかげで子どもたちが一斉に育ち、竹林が再生されます。何とキッパリとした生き方でしょうか。


図1-2 ナシタケ(メロカンナ)の巨大な実から発芽した芽生え。イネ科であるタケの仲間の穎実は普通お米のサイズ程度ですが、この実は驚くほどに大きい。


タケが一斉に咲くのは滅多にないことなので、「裏山のタケが一斉に咲いた」などとして、しばしば新聞やテレビを賑わせることがあります(図 1-3)。このように一斉に咲く年の間隔は、タケの種類によってほぼ決まっていると考えられています。


図1-3 花が咲いて枯死しつつあるタケの株。タケが「部分的に」花を咲かせるのは珍しいことではありませんが、広い範囲で一斉に同調して開花する「一斉開花」現象は、長い周期の末に起きる稀な出来事です。


しかし、その間隔は60年とか120年などとも言われるものもあり、いったい本当は何年間隔なのかよくわかっていません。


記録のある例としては、1960年代に日本各地でマダケが一斉に開花して話題になり、その開花周期は115年から120年ほどだったと言われています。また、1930年に咲いたモウソウチクは、その種子から育ったタケが67〜69年目の1997〜1999年になって花を咲かせたという例も報告されています。いずれにしても,その間隔が私たちの寿命程度あるいはそれ以上に長いため、正確な記録が取られにくいのです。


私たちのグループでは、このようなタケの仲間の生態について研究しており、どこかで一斉開花が起きないか、各地の情報を探し回っていました。そんな矢先の2004年春のこと、インドの北東部に分布するタケが、2007年頃48年ぶりに一斉に咲くらしいという情報が入ってきました(図1-4)。


図1-4 インド・ミゾラム州で一斉に開花・枯死したタケによって、枯れた竹林に覆われた山々。


聞くところによると、そのタケの花が咲いて実がなると、その実を食べるためにネズミが大発生して農作物も食い荒らし、48年ごとに大飢饉が起きていたというのです(図1-5)。


図1-5 タケの一斉開花後に個体数が増えたクマネズミ。2007年にミゾラム州の調査地で捕獲されました。


記録は1800年代から残されており、1815年、1863年、1911年、1958〜1959年という、ほぼ48年周期で一斉に開花してきたとのことです。その情報が正しければ、次は2007年頃に一斉開花が起きることになるという予測だったのです。


この情報を入手した私たちは、京都大学の柴田昌三教授を中心とした合同調査隊を組織して、2005年から現地に乗り込み、このタケの生態調査を開始したのです。さて、2007年に本当にタケの花が一斉に咲いたのでしょうか?


次回から4回にわたって、このときの調査から始まった一連の研究の顛末をお話しします。



次回は「第2回 予測通りに起きた48年目の一斉開花」です。

配信日程:10月6日(火)午前10時ごろ配信予定



出典:陶山佳久著「48年周期で咲いて生まれ変わるタケ」、(新田梢・陶山佳久編)生物時計の生態学—リズムを刻む生物の世界(仮).文一総合出版 2015年12月出版予定

謝辞:この記事は、京都大学の柴田昌三教授をリーダーとした共同研究チームによって、2005年から行われた一連の研究プロジェクトの成果にもとづいています。


【プロフィール】

陶山佳久(すやま よしひさ)

東北大学大学院農学研究科准教授

専門は森林分子生態学。DNA分析技術を使った植物の繁殖生態・進化に関する研究のほか、絶滅危惧植物の保全遺伝学、植物古代DNAの分析、生物多様性保全やその応用技術に関する研究など、国内外で多彩な研究を行っている。

主な著書に『生態学者が書いたDNA の本』(共著、文一総合出版、2013年)、共編著書に『地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン』(文一総合出版、2015年)、『森の分子生態学2』(文一総合出版、2012年)、『Single-Pollen Genotyping』(Springer、2011年)、『森の分子生態学』(文一総合出版、2001年)など。