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【48年目に一斉に咲いたタケ~植物がもつ「時計」の生態学~】第3回 48年前に日本に持ち込まれた種子

2015/10/07 10:00

インドのミゾラム州一帯でナシタケが48年ぶりに予測通りに一斉に咲いたという出来事は、タケ類の開花が一定の周期で生じていることを示す貴重な観察例となりました(図3-1)。しかし、どのような仕組みで48年目に一斉に咲いたのか、そのメカニズムについては全くわかっていません。


図3-1 ミゾラム州の上空から確認できた広い範囲の「枯れた竹林」。茶色に見える部分は、ナシタケ(メロカンナ)の一斉開花によって枯れた竹林になった場所だと思われます。


このように突然広い範囲で同調して花が咲くようなケースでは、降水量や温度などの極端な変化がシグナルとなることがあります。しかし、このタケの場合はそのように考えるのは無理があるでしょう。なぜならば、もしも気候の変化がシグナルになっているとすると、これまで48年間隔で同じようにその変化が起きていなければならないからです。もちろん、その可能性を完全に否定することはできませんが、もしもこのような開花が、まったく違う気候下でも同時に起きていたらどうでしょう?(図3-2)


図3-2 開花して薄い茶色の花序がぶら下がるナシタケ(メロカンナ)の枝。このような開花が広い範囲で同調して起きました。


現地での調査を続けている頃、面白い情報が飛び込んできました。何と48年前、つまり前回一斉に花が咲いて実がなった年である1961年に、日本の研究者が現地で種子を採取し、日本に持ち帰って育てたというのです。


「もしかしたら、日本でも48年数えて花が咲いているかもしれない!」と考えた私たちは、それが育てられているという京都大学の施設(和歌山県白浜)に向かったのです(図3-3)。


図3-3 現在のバングラデシュの自生地で1961年に採取されたナシタケ(メロカンナ)の種子が日本に持ち帰られ、京都大学フィールド科学教育センター旧白浜試験地に植栽されていました。看板には古い学名であるMelocanna bambusoidesと書かれています。


48年もの年月を経て、そのタケは人目のつかないところに移植され、ひっそりと生きていました。ようやくその株を見つけただけで興奮してしまった私たちは、一見して花は咲いていないように見えたため、あやうく注意深く観察するのを忘れるところでした。ふと手を止めて見上げると、何と小さなつぼみがついているではありませんか!私たちはさらに興奮して歓喜の声をあげ、48年ぶりの開花が、インドと日本で同時に起きたという事実をこの目で確認したのです(図3-4)。


図3-4 1961年に自生地から持ち込まれた種子から育ったタケが、48年後の2009年に開花しました。


その後さらに調べてみると、このように自生地とは別の場所に移植された株でも、48年目前後に開花したという例がいくつかあることがわかりました。たとえば熊本県のエコパーク水俣にある竹林園では、高知県から分植された株が2010年に開花して大きな実をつけ、地元メディアにも取り上げられて話題になっていました(図3-5)。


図3-5 水俣市の竹林園で2010年に開花して結実したナシタケ(メロカンナ)。


これらのことから判断すると、このタケの48年周期の開花は、気候変化のシグナルによって起きているのではなく、タケがもつ「時計」の仕組みによって48年間を数えていたと考えたほうが良さそうです。


次回は、この「時計」の謎を解くヒントになるかもしれない「例外」についてお話しします。


次回は「第4回 枯れない竹林の謎」です。

配信日程:10月8日(木)午前10時ごろ配信予定



出典:陶山佳久著「48年周期で咲いて生まれ変わるタケ」、(新田梢・陶山佳久編)生物時計の生態学—リズムを刻む生物の世界(仮).文一総合出版 2015年12月出版予定

謝辞:この記事は、京都大学の柴田昌三教授をリーダーとした共同研究チームによって、2005年から行われた一連の研究プロジェクトの成果にもとづいています。


【プロフィール】

陶山佳久(すやま よしひさ)

東北大学大学院農学研究科准教授

専門は森林分子生態学。DNA分析技術を使った植物の繁殖生態・進化に関する研究のほか、絶滅危惧植物の保全遺伝学、植物古代DNAの分析、生物多様性保全やその応用技術に関する研究など、国内外で多彩な研究を行っている。

主な著書に『生態学者が書いたDNA の本』(共著、文一総合出版、2013年)、共編著書に『地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン』(文一総合出版、2015年)、『森の分子生態学2』(文一総合出版、2012年)、『Single-Pollen Genotyping』(Springer、2011年)、『森の分子生態学』(文一総合出版、2001年)など。