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【48年目に一斉に咲いたタケ~植物がもつ「時計」の生態学~】第5回 周期年の「48」という数字

2015/10/09 10:00

インド北東部に分布するナシタケ(メロカンナ)が、ほぼ48年周期で一斉に開花して、その名の通り大きなナシのような実を結びました(図5-1)。


図5-1 48年ぶりに一斉に開花して結実したナシタケ(メロカンナ)の実。


その後、この実から子どもが育ち(図5-2)、一斉に次世代の若い竹林に入れ替わりました。このような一大イベントが、これまで48年ごとに繰り返されてきたと考えられています。


図5-2 ナシタケ(メロカンナ)の実から発芽した実生。発芽後1ヶ月程度で約1メートルの高さに達する。


しかし、このタケがどのようにして48年という長い年月を数えて花を咲かせていたのか、その生理学的な仕組みはまったくわかっていません。また、どうしてこのような長い周期ができあがるのか、その生態学的な理由についても、確かなことは何もわかっていません。しかしここで、少しだけそのメカニズムについて想像を膨らませてみましょう。


このような周期が、時計の働きをする特定の遺伝子によって制御されているとしましょう。いわゆる「時計遺伝子」と言われるものです。一方、生物が進化する過程では、しばしばこのような遺伝子のコピーができて、2つ(2倍)に増えることがあります。


ここでさらに仮定を加え、その遺伝子が2倍になると、単純にその遺伝子が制御する時間も2倍になるとすると、面白いことに気づくはずです。このタケの開花周期年である「48」という数字を見て、ハッと気づいた方もいらっしゃるのではないでしょうか。現地での調査を続けながら自由な発想で話し合っていると、このような新たな発見を生むことがよくあるものです(図5-3)。


図5-3 インド・ミゾラム州の「天空の村」の建物屋上から、ミゾラムの山並みを眺めて考えにふける研究チームの仲間。このような時間を過ごす中で、新たなアイディアが生まれることがよくあります。


「48」というのは非常に都合のよい数字なのです。なぜならば、48にするためには、たとえば3なら4回2倍にすればいいのです。同様に、6ならば3回、12ならば2回、24ならば1回2倍にするだけで48という数字に到達できるのです。言い換えると、もしもこのナシタケの祖先が6年の周期で花を咲かせる遺伝子を持っていたとすると、その遺伝子を2倍にする進化が3回起きれば、48年周期という性質が出来上がってしまうのです。48年と考えると、とても長い時間のように感じられますが、2倍2倍と考えると、それほど複雑な仕組みを考えなくてもいいように思えます。


さらにもう少し発展させて考えると、前回お話しした「枯れない竹林」のマウハクは、実は「枯れない」のではなく、もしかしたら48の2倍である96年とか、さらにその倍である192年の周期を持った「変異体」の竹林で、今回や前回は「お休みしてスキップ」しただけなのかもしれません(図5-4)。


図5-4 山の頂上付近に形成されているミゾラム州の「天空の村」。標高が高い場所では気温が低くて過ごし易いだけでなく、「首刈り族」の地だったこの地域では、防衛上も山の上の方が都合よかったと言われています。この集落にある「マウハク」では、48年後に花は咲くのでしょうか。


ここで説明した内容は、あくまでも想像でしかありません。どのようにしてこの生物が進化してきて、どのようにして48年という周期が制御されているのでしょうか。これらの謎を解くことは、生物が広く持っている「生物時計」の謎を解くことにつながり、ひいては私たち人間が生物として持っている「時計」や「リズム」についての理解を深めることにつながるかもしれません。


つまりこの一斉開花の現象は、タケ類の生態として興味深いだけでなく、生物の基本的仕組みという意味でも興味深いのです。


計算どおりにいけば、次にこのタケが一斉に開花するのは2055年頃のことでしょう。できることなら、私たちはそのときが来るまで私たちの調査区での追跡調査を継続したいと考えています(図5-5)。


図5-5 ミゾラム州の調査区に発生したナシタケ(メロカンナ)の芽生え約4000本すべてに識別タグ(ナンバーテープ)をつけた追跡調査。次の開花年である2055年まで継続できるでしょうか?


そのときまでには私の寿命が先に訪れ、もう一度一斉開花の光景を目にするのは無理かもしれません。でも、もしもこのお話を読んでいただいた若い読者の中で、この研究を引き継いでくれる人がいたら、心から歓迎して協力させていただきたいと思っています。


2055年、果たしてこのタケはもう一度一斉に咲くのでしょうか?


出典:陶山佳久著「48年周期で咲いて生まれ変わるタケ」、(新田梢・陶山佳久編)生物時計の生態学—リズムを刻む生物の世界(仮).文一総合出版 2015年12月出版予定

謝辞:この記事は、京都大学の柴田昌三教授をリーダーとした共同研究チームによって、2005年から行われた一連の研究プロジェクトの成果にもとづいています。



次回は「宇宙への行き方、教えます!」です。

配信日程:10月12日(月)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

陶山佳久(すやま よしひさ)

東北大学大学院農学研究科准教授

専門は森林分子生態学。DNA分析技術を使った植物の繁殖生態・進化に関する研究のほか、絶滅危惧植物の保全遺伝学、植物古代DNAの分析、生物多様性保全やその応用技術に関する研究など、国内外で多彩な研究を行っている。

主な著書に『生態学者が書いたDNA の本』(共著、文一総合出版、2013年)、共編著書に『地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン』(文一総合出版、2015年)、『森の分子生態学2』(文一総合出版、2012年)、『Single-Pollen Genotyping』(Springer、2011年)、『森の分子生態学』(文一総合出版、2001年)など。