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【宇宙への行き方、教えます!】第2回 ロケット旅行はかなりスリリング
2015/10/13 10:00
東北大学大学院JAXA連携講座の富岡です。前回ロケットは加速マシーン、と書きました。加速したければどうするか?車で言えばレーシングカー、身軽にして、エンジン大出力にして。でもロケットでは、もっともっと、なんです。
突然ですが、ツィオルコフスキーという名前を知っていますか?1900年代初頭の、まだライト兄弟の飛行機が空を飛ぶ前に、宇宙に行くならこうしなきゃ、という理論を打ち立てた人です。しかも独学で(中学校しか出ていないそうです)。天才ですね。彼の立てた通称ロケット方程式は、「速度増分=エンジン排気の速度*ln(加速前重量/加速後重量)」となります。
ちなみに加速前重量—加速後重量、は、使い果たした燃料と酸素の量、です。今のロケットエンジンで最も燃費の良い水素・酸素の組み合わせでも、第一宇宙速度に加速するのに、「(燃料+酸素の量)/加速前重量」は85%位と計算されます。
つまり、地面を離れるときの重さ(離陸重量)の85%が燃料と酸素で、残りの15%が機体とエンジンと荷物(これは精々2〜3%)、です。(図1)を見て下さい。胴体の中には燃料と酸素がぎっちりです
これがどれ位すごいのか。飛行機はロケットと同じ様に、より軽く作ることが大事です。アルミニウム合金(最近は複合材も)と言う軽い材料で、作り方も工夫して軽く軽く作ります。それでもロケットと似た様な大きさの飛行機の機体とエンジンと荷物の重さは、離陸重量の60%になります。機体+エンジンで45%位かな。つまりロケットは飛行機の1/3位に軽くしているのです。それだけ頑丈さに欠けます。
ロケットの場合、それだけ軽く作って、更に途中で空になったタンクを、エンジンごと切り捨てて、残りの部分で加速を続けて行きます。身軽になって、更に加速するのですね。空になったタンクを加速させる程、余裕は無いのです。
エンジン大出力、も、すごいです。軽くて力持ち。日本の主力ロケットエンジンだと、車一台分位の重さしかないのに、車60〜70台持ち上げてしまいます。作動中は原発一基分位の出力です(図2)。ただし10分とかしか保ちません。
ロケットエンジンは、ポンプという心臓で燃料と酸素を燃焼室に押し込んで燃やし、ノズルから吐き出して力を出します。先ほどの日本の主力ロケットエンジンでは、風呂桶3配分位の燃料を、毎秒毎秒燃焼器にグイグイと押し込みます。ポンプの出力だけで24000馬力。車のエンジンと大差ない大きさなのに(図3)。ロケットエンジンも、かなり無茶な機械なのです。
ロケット打ち上げのときの映像を覚えている方、打ち上げが上手く行くと管制室で拍手が起こるところを見たこと有りませんか?最初にロケットが地球の周りを廻ったのは1959年、人間がロケットに乗って地球の周りを廻ったのは1961年、以来半世紀も立っているのに、未だに拍手が起こるのは、ロケットが無茶な機械で、エンジンが無茶な機械だからなんですね。世界的な相場では20回に1回はしくじります。飛行機とは違いますね。
次回は「第3回 実はホラー映画の世界」です。
配信日程:10月14日(水)午前10時ごろ配信予定
【プロフィール】
富岡 定毅(とみおか さだたけ)
東北大学大学院工学系研究科JAXA連携講座客員教授
兼
宇宙航空研究開発機構(JAXA)アソシエートフェロー
将来のロケットについての研究を、主にエンジンの面から進めつつ、学生さんとの関わりも楽しめる有難いポジションにいます。
趣味:スターウォーズと飛行機大好き。最近料理にハマっている。酒飲み。