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【宮城県議選の前に読む選挙いま・むかし】第5回 若者の政治的発言力は60歳代の3分の1~有権者年齢18歳引き下げの背景~

2015/10/23 10:00

2016年7月の参院選から、選挙権を持つ年齢が満18歳以上に引き下げられます。今回は、その背景と課題について考えてみましょう。


国際的には170の国と地域で、選挙権年齢は18歳以上とするところが多く、これまでの日本のような20歳以上というのはむしろ少数派です。とくに先進国で20歳以上は日本だけでした。


18歳以上に引き下げられた背景の一つはこの世界の大勢です。第2に若年人口が減っているために、若い層の意見が政治に反映されにくいという課題があります。


しかも図5のように投票率は若年層ほど低い傾向にあります。最近の参院選では20歳代は約3人に1人しか投票に行っていません。投票に行く人の割合は60歳代の半分にとどまります。2013年時点での60歳代の人口は1836万人ですが、20歳代の人口はその71.2%の1307万人にとどまります。




1票の重みを年齢階層別に考えてみましょう。60歳代を1として、20歳代の実質的な政治的発言力を試算してみましょう。


投票率が半分で人口が71%ですから、0.5×0.71=0.355。約3分の1 にとどまります。


当事者である20歳代の人たちは自覚していませんが、自分たちの世代の3分の2が常に棄権しており、60歳代に比べると、自分たちの政治的発言力が約3分の1 にとどまるという現実を重く受け止めるべきです。


しかも高度経済成長の恩恵を受けてきた現在の60歳代に対して、非正規雇用増大の現実に直面し、将来高負担に苦しむのは、若い世代の人たちです。


以上は選挙権に限った話であり、被選挙権は参院選と知事選は30歳以上、衆院選・地方議員選挙・市町村長選は25歳以上と制限されていることも考慮しなければなりません。


18歳以上への選挙権年齢の引き下げの目的は、若い人々の政治的関心を高め、若い人たちの社会への発言力を高めることにあります。


選挙権年齢を2歳引き下げることで増える有権者数は約300万人、有権者全体の約3%です。選挙権年齢を引き下げても、若年層の投票率は低いのだし、選挙への実質的な影響はさほど多くないという意見もあります。


仮に投票率をこれまでの20歳代のように33%程度とすると、実質的に増える投票数は全国で100万票程度です。1都道府県あたり、平均2万票程度です。衆院の小選挙区は全国で295ですから、1小選挙区あたり平均3000票程度です。


18歳以上に引き下げられると、18歳の誕生日を迎えた高校3年生も投票できることになります。高校の現場で、高校生にどのような有権者教育をするのか。どこまで有権者教育をするのか、という新たな課題が出て来ます。高校の現場が、有権者教育に対して萎縮する危険性も指摘されています。


日本の選挙制度は国際的にみるとそもそも禁止事項が多く、選挙期間も短縮されつつあり、選挙への有権者の関心を低下させる方向に改変されてきた歴史を持っています。


18歳以上への引き下げによって、はたして若い世代の政治的関心は高まり、若年世代の投票率は上昇するでしょうか。選挙戦のあり方も、より若者を意識したものに変わってくるでしょうか。



次回は「ビッグデータ時代のビジネスと消費者」です。

配信日程:10月26日(月)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

長谷川 公一(はせがわ こういち)

東北大学大学院文学研究科社会学専攻分野教授


市民社会論や環境社会学、政治社会学、社会運動などを主に研究しています。投票は有権者にとって貴重な政治参加の機会です。選挙権を持つようになって40年あまり、海外出張中を除いて、棄権は1度もありません。

趣味:俳句。句集に『緑雨』(りょくう)があります。時雨、白雨、紅雨など、日本語ほど、雨に関して繊細で豊かな言葉をもつ言語はありません。