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【ビッグデータ時代のビジネスと消費者】第4回 テレビ広告の効果

2015/10/29 10:00

皆さんは、テレビを見るたびに広告も見ていると思います。広告は何のために行われ、企業にとって、本当に効果はあると考えられるのでしょうか。


広告ビジネスは経済活動において大きなシェアを占めており、2014年のGDP(国内総生産)の1.26%を占める6兆1,522億円となっています。これまでテレビ、ラジオ、新聞、雑誌への広告掲載が半数以上を占め、マスメディア四媒体と呼ばれていました。その中でもテレビは突出して1位であり、2014年は約2兆円の売上を挙げています。


広告費は企業経営においても多額の投資となるため、広告効果の測定は企業にとって極めて重要な問題です。とくに一番大きなシェアを占めるテレビ広告の効果については、広告主から説明責任が求められるようになってきました。


広告が消費者の購買に与える役割については、製品に対するイメージや購買に直接働きかける説得的役割と製品やその使い方、価格などの情報を提供する情報提供の役割があります。広告の効果については、購買を即座に誘発する直接効果ばかりでなく、製品の利便性や品質を消費者に知らせて次回以降の購買に影響を及ぼすなどの間接効果もあります。


その効果を客観的に評価して無駄のない経営を行うためには、データの分析が必要となります。私の研究(Terui, Ban and Allenby, 2011)では、消費者一人ひとりについて、広告を見た回数と購買行動(何をいくらで買ったか)が同時に記録されたデータ(シングルソースデータ)を用いて分析しました。


その結果、洗剤の市場に関して、テレビ広告は、商品を購買候補の選択肢の中に入れることに効果を及ぼしますが、購買行動には直接影響を与えないこと、さらに、ひとたび選択肢に入るとその後の効果はほとんどない、ことを発見しました。ただし、広告の回数を減少させると同程度増加させた場合に比べて著しくその製品の市場でシェアが減少することも示しました。


消費者の購買を誘発する直接の効果は無くても、ライバル製品との競争のために広告を出し続けなければならない市場原理の厳しい現実の姿が垣間見れる結果です。


また別の研究Terui and Ban (2009)では、広告を何回見ると効果が現れるか(広告業界では広告のヒット率と呼ばれます)を分析し、洗濯用洗剤市場では平均2回、インスタントコーヒー市場においては平均8回広告を見ると効果が出ることを明らかにしました。これは広告業界での実務経験から何となく囁かれてきたことをそのメカニズムも含めて可視化した研究です。


さらにTerui and Ban (2010)では、効果的な広告を考えるための広告管理モデルを開発しました。そこでは、男性と女性、若年と高齢から4つの消費者グループに分け、各グループでの広告効果の違いを分析しました。例えば、インスタントコーヒーの広告データでは、広告の削減に最も鈍感なのは男性高齢者グループであり、最も敏感なのが若年女性グループであることがわかりました。その結果、CMの作り方や広告を出す時間帯などを効果的に計画するために役立つ情報が得られました。





次回は「第5回 インターネット広告の裏側」です。

配信日程:10月30日(金)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

照井 伸彦(てるい のぶひこ)

・東北大学大学院経済学研究科・教授、同サービス・データ科学研究センター長を兼務

・2012年より情報システム研究機構・統計数理研究所客員教授

・仙台市生まれ、仙台二高卒

・統計学をマーケティングや経済分析へ応用する研究を行っている。最近の著書に「現代マーケティング・リサーチ」(有斐閣)、「Rによるベイズ統計分析」(朝倉書店)などがある。

・日本統計学会賞(2013)、The Tjialling C.Koopmans Econometric Theory Prize (1992)を受賞、日本学術会議連携会員。