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【脳はカルシウムがなければ働かない!?】第2回 カルシウムを測って神経細胞の活動を知る!

2015/11/10 10:00

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第1回では脳の大まかな構造と、シナプス伝達という情報の伝達にカルシウムが必要である、というお話をしました。今回は、カルシウム (Ca2+) の変化を光で測って、たくさんのニューロン (神経細胞) の活動を見ることができる、というお話をしたいと思います。


なぜ、カルシウムを測るとニューロンの活動を見ることができるのでしょうか?

ニューロンが活動すると電気信号 (活動電位) が発生しますが、その時に、ニューロンのカルシウム濃度は上昇するのです。


第1回の図に「電気信号で開くカルシウムの通り道」というワードが書いてありました。これは、細胞の電気信号を感じ取って、カルシウムを通すようになるタンパク質です (電位依存性カルシウムチャネルといいます)。このカルシウムチャネルは神経細胞にたくさんあるため、電気的な信号がカルシウム濃度変化につながるのです (図 6)。




図 6. シナプス伝達から神経活動が起こり、細胞のカルシウムが上昇する仕組み。(上図) シナプス伝達が起こってグルタミン酸が放出されると、シナプス後細胞 (大きな丸で書いてあるのが細胞) では、グルタミン酸受容体が活性化して、細胞の電位が変化します。その電位変化を感じ取って、電位依存性ナトリウムチャネルというナトリウムの通り道が開いて、活動電位という大きな電位変化が起こります。この大きな電位変化によって、電位依存性カルシウムチャネルが開いて細胞の外から中にカルシウムが流入します。(下図) 活動電位が起こった時のニューロンでのカルシウム濃度変化。横軸が時間、縦軸がカルシウム濃度を表している。


生体には他のイオンもたくさんあって、ニューロンが活動するとカルシウム以外のイオンの細胞内の濃度も変化します。それなのに、なぜカルシウムを測るのでしょうか?


まず、細胞の中のカルシウムイオン濃度は細胞の外の濃度 (血中とほぼ同じ) に比べて約 2 万倍低く保たれています (図 7) (細胞の中のカルシウム濃度は約 100 ナノモル/リットル、細胞の外のカルシウム濃度は約 2 ミリモル/リットル: モル/リットルは 1 リットル中に約 6 × 10 の 23 乗個の分子があるということ、ナノは 10 億分の 1、ミリは 1000 分の 1)。そのため、カルシウムチャネルが開いて細胞の外からちょっとでも細胞の中にカルシウムが入ると細胞の中のカルシウム濃度は簡単に何十倍にも何百倍にもなります。




生体の他のイオンで細胞の中の濃度がこれだけすぐ変わるものはありません。そのため、測りやすいというメリットがあります。さらに、第1回でもお話ししたように、カルシウムはそれ自体が脳の働きに大事なので、その濃度を測って詳しく調べることで、脳の機能についていろいろわかることがあるからです (詳しくは第4、5回をお待ちください)。


次に、なぜカルシウムでニューロンの活動を同時にたくさん測る必要があるのでしょうか?


第1回でお話ししたように、脳ではたくさんのニューロンが同時に働いて仕事をしています。ニューロンの活動をたくさん同時に計測できれば、脳がどのような仕組みで情報を処理しているのか解明する手がかりを得ることができます。


このカルシウム濃度の変化を捉えるために、特殊な化学物質 (カルシウム感受性蛍光色素) を用いて蛍光測定を行います (これをカルシウムイメージングといいます)。この蛍光測定というのは光を用いた計測法ですが、光を使うことによって、たくさんの細胞の活動を同時にイメージングすることができるのです。この方法を使うと、ページ TOP の動画のように、一つ一つのニューロンが星のまたたきのように活動していることを可視化することができます。


このページのTOPにある動画を見ているとお分かりになると思いますが、ニューロンは一定リズムで活動しているわけでも、すべてのニューロンが同時に活動しているわけでもありません。この活動のパターンを詳しく調べていくと、脳の仕組みを知る手がかりを得ることができます。


最近では特殊な化学物質でイメージングを行うのではなく、クラゲなどの光るタンパク質を遺伝子工学的に導入してイメージングを行う方法も一般的になってきました (2008 年にノーベル化学賞を受賞された下村先生らの功績です)。



次回は「第3回 MRI で脳のカルシウムを測って病気を知る」です。

配信日程:11月11日(水)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

小山内 実 (おさない まこと)

・東北大学大学院医学系研究科・准教授、同大学院医工学研究科・准教授を兼務

・茨城県水戸市生まれ、水戸一高卒 (小学校1年までの幼少期を仙台市で過ごす)

・脳機能解明に向けて、カルシウムイメージングを主な手法として研究を行っている。

・著書には、認知機能とカルシウム―基礎と臨床― (小川純人 編) 「大脳における細胞内カルシウム振動と神経・認知機能」医薬ジャーナル社、臨床医工学・情報学スキルアップシリーズ 1 臨床医工学スキルアップ講座 (春名 正光ら 編) 「バイオイメージング」大阪大学出版会、がある。

・電気学会 電子・情報・システム部門大会, “企画賞”(2013)、日本生体医工学会“生体医工学シンポジウム2006 ベストリサーチアワード”(2006) などを受賞、日本生理学会評議員。