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【経済学で読み解くニュースの核】 第2回 世界一長生きで金持ちな国、日本の幸福度は第46位の不思議
2015/11/17 10:00
【特別アンコール企画】
今週は9月7日(月)~9月11日(金)のコラムをアンコール配信します。
1.日本人の寿命はまた伸びた
先ごろ7月末に厚生労働省から日本人の寿命の最新データが公表されました。寿命とは0歳の子どもがあと何年生きられるかを基準にして示されるものです。2014年のデータに基づくと、日本人の平均寿命は、男性で80.50歳、女性で86.83歳となりました。この結果は国際的にみても優秀な成績であるといえます。表に示すように、戦後日本人の寿命は着実に伸びてきました。
2.お金持ちで長生きな国、日本の幸福度
人生における幸福の要件は様々にあげられると思いますが、お金持ちで長生きなこと、すなわち経済的に満たされていることと、寿命が長いことは誰でも思いつく幸福の条件ではないでしょうか。
20世紀最後のバブル経済の時期には、ニューヨークのロックフェラービルを買収し、世界経済を席巻した日本は、「失われた20年」のもと低成長に直面したものの、経済的な生活水準は依然として世界有数であることに変わりはありません。
GDP(国内総生産)はアメリカ、中国に次いで世界で第3位ですし、対外純資産残高(外国に貸し付けている財産の多さ)では日本は世界の第1位ですから、ある意味ではわたしたちは「世界一金持ちで長生きな国」に住む国民であるといえるのです。
では、その国に住む国民の幸福度は世界何位のでしょうか。先ごろ国連のプロジェクトの一環として、アメリカコロンビア大学の研究者らが行った幸福度の国際ランキング※3によると、日本の幸福度は世界で第46位という下位にランク付けされ、昨年の43位からさらに下落しているというあまり喜ばしくない結果となっているのです。
この結果によると、第1はスイス、第2位がアイスランド、以下デンマーク、ノルウェー、カナダ、フィンランド、オランダ、スウェーデンといわゆる北欧諸国が目につきます。日本の上位には、ウルグアイ(32位)、コロンビア(33位)、エルサルバドル(42位)など中南米の国やシンガポール(24位)、タイ(34位)、台湾(38位)など、東アジアの国々もランクインしています。
3.なぜ日本の幸福度が低いのか
実は、経済的な豊かさが必ずしも幸福度につながらないことは、経済学の分野では知られたことで、経済学者「イースタリンの逆説」として指摘されてきたのです。「金持ち必ずしも幸せならず」であれば、お金持ち日本が上位にランクインしていないのもそれなりの理由がありそうです。では、長寿の方はどうでしょうか、日本の内閣府が行った調査によれば、海外では年を取るとともに人生が円熟し、幸福感が増加するのに対し、日本人の幸福度は高齢になっても上昇しないという結果が得られています。
高齢者になっても、人生における満足度が上昇しないのであれば、世界有数の高齢化に直面している日本人全体の幸福度が増加することは難しいと言えます。
4.男女平等度と幸福度の不思議な相関
国際幸福度が46位で下降中という不名誉な日本のランキングのほかに、実はもうひとつ恥ずかしい日本の国際ランキングがあるのです。それは、男女平等度の国際ランキングです。これは、ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが取りまとめた指標で、最新の2014年版のランキングでは、日本は世界で第104位という非常に低い結果となっているのです。このランキングの上位に顔を出している国は、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、デンマークなどの先の幸福度で上位であった国々なのです。
そこで、東北大学の私の研究室で過去に公表されたランキング・データをもとに男女平等度と幸福度の相関を見たところ、5割近くで正の相関が確認されたのです。
先にあげた所得と幸福度では相関は弱くてせいぜい1割程度といわれているので、乱暴な言い方をすれば、男女共同参画社会の実現は経済成長の5倍程度日本の幸福に役に立つと言えるのではないでしょうか。安倍政権は「女性が輝く社会づくり」※7として、男女共同参画社会の推進を掲げていますが、これは単にスローガンではなく、本当に日本の幸福度の向上につながる形で実を結ぶことが強く期待されているといえます。
参考URL
※1. 日本人の寿命の最新データ
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life13/
※2. 資料:「平成25年 簡易生命用の概況」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life13/
※3.幸福度の国際ランキング
http://www.theglobeandmail.com/news/national/article24073928.ece/BINARY/World+Happiness+Report.pdf
※4. 資料:"WORLD HAPPINESS REPORT 2015" Edited by John Helliwell, Richard Layard and Jeffrey Sachs.
http://www.theglobeandmail.com/news/national/article24073928.ece/BINARY/World+Happiness+Report.pdf
※5. 資料:『平成20年度 国民生活白書』(内閣府)
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/whitepaper/h20/10_pdf/01_honpen/
※6. 資料:"The Global Gender Gap Report 2014"The World Economic Forum.
http://reports.weforum.org/global-gender-gap-report-2014/
※7. 女性が輝く社会づくり
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/josei_link.html
次回は「第3回 非婚化・晩婚化の経済学」です。
配信日程:11月18日(水)午前10時ごろ配信予定
※本日のコラムは2015年9月8日に配信したものをアンコール企画として再配信しています。
【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授