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【経済学で読み解くニュースの核】 第5回 説明責任ってどういうこと?ニュースで気になる言葉。

2015/11/20 10:00

【特別アンコール企画】
今週は9月7日(月)~9月11日(金)のコラムをアンコール配信します。


1.記者会見のエンターテイメント化?

かつて、政党の離合集散が激しく行われたころ、政治ショーとか政治のエンターテイメント化とは言われたことがありました。そこでは、ニュース等の報道番組で伝えられる政治の動向が、まるで政治家を主人公とした戦国時代の国盗り物語の攻防を描く歴史ドラマのように受け取られました。昨今では同様に、本来厳粛な報道内容である記者会見が、会見を行う側の要因により、不思議にエンターテイメント化しているように思われます。


最近では、記者会見に関しその大きなムーブメントを作り出したのが、石原元東京都知事であり、橋下大阪市長ではないでしょうか。これらの記者会見の場は、まるで首長と報道記者と間のバトルの場でありました。このため、記者会見本来の市民に対して明らかにするべきことを伝えるという目的とはやや異なった在り方をしていました。


さて、政治家でも企業のトップでも不祥事に対して記者会見を行って「誤解を解く」「釈明をする」ということはよく行われることです。逆に、逃げ回ってばかりでなかなか会見を行わない場合は「説明責任を果たすべきである」ということが言われます。今日はニュースでよく聞く「説明責任」という言葉について考えてみましょう。




2.説明責任の本来的意味は

「説明責任」という言葉を文字通り解釈すれば、「説明する責任を果たすこと」ということになります。すなわち、記者会見を行なわないことは、大衆や社会に説明する義務を果たしていないことですから、きちんと記者会見を開いて説明を行ってその責務を果たすことが求められることになるわけです。


しかし、説明責任の原義は単に「会見を行って自分の見解を述べること」ではありません。説明責任という言葉はもともと日本語に存在した言葉ではなく、またマスコミや政治家が作り出した造語でもありません。そのもとになる言葉は、英語のAccountability(アカウンタビリティー)という言葉です。


カウント(数える)という言葉が使われていることからわかるように、アカウンタビリティーはもともとビジネスや会計の世界で企業活動の内容、特に財務や決算の数字についてきちんと明らかにして説明できることから由来していえます。企業会計の財務諸表は、経営の内容、すなわち企業の活動の内容とその結果(損益)について、矛盾がなく「つじつまの合った形で」作成されている必要があります。そこには、当然に使途が不明なお金があってはならず、またあちらの会計帳簿とこちらの会計帳簿で相違があってはならず、さらに財務諸表を作成した人の自分の見解で数字が増減することがあってはなりません。これらのことは、企業会計の世界では「企業会計原則」として確立されています。すなわち、客観的立場から事業活動とその結果について、その決算を読むステークホルダー(投資家)が、明快かつ納得できる形で説明されていることが求められるわけです。




表1はいくつかある企業会計原則の中から、説明責任を果たす意味での記者会見の条件として非常に参考になる3つのものを掲げてあります。真実性、明瞭性、単一性の各原則は、記者会見において本当の事実をはっきりとわかりやすく、矛盾なく説明するという点につながります。


表1 企業会計原則で示されている重要な原則

・真実性の原則…企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。・明瞭性の原則…企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。・単一性の原則…株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。


その考え方にもとづいて、説明責任という言葉を再度考え直すと、説明責任を果たすということは、単に「記者会見を行って自分の見解を説明する」ということではないことがわかります。どうしてそのような結果になったのか、そのような結果になった原因や行ってきた活動はどうなのか、そしてスーテークホルダー(国民や消費者)が疑問に感じていることに対して納得できるような内容を伝えてはじめて「説明責任が果たされた」といえます。


こう考えると、これまで研究者、議員、アーティストなどが「炎上」してしまった記者会見の多くが、自分なりの立場の「説明」をしてはいましたが、説明「責任」は果たされていなかったことがわかると思います。


そして、最近この「説明」にまつわり、ニュースでよく聞く言葉が現れました。「丁寧な説明で理解を得る」という表現です。「丁寧な説明」は説明責任を果たすために必要なことではあるかもしれません。ですが「くどくどと長い文章で繰り返し自分の主張を述べて」も、それで説明責任を果たしたことにはならないことは、もう皆さんはおわかりでしょう。たとえ素っ気なくともよいですから、「的を射た」そしてわれわれ会見を見る者の疑問にまっすぐと答え、納得できる説明であれば、それで責任は果たされたと言えるのではないでしょうか。そこで最後に、私の考えた「記者会見原則」を表2に示しておきたいと思います。


表2 記者会見原則(案)

・真実性の原則…記者会見は、事態の経過および状況に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。・明瞭性の原則…記者会見は、疑問を解消するために必要な事実を明瞭に表示し、聞く者が評価・納得できるようにしなければならない。・単一性の原則…記者会見を行うたびに内容が変化したり、同一の事柄に矛盾が生じないようにしなければならない。


参考URL

※1. 東京都知事の部屋(現在)

http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/greeting.htm

※2.石原元都知事の会見

http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/ARC/20121031/KAIKEN/kako24.htm

※3.大阪市長の部屋