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【5日間で「名コーチ」に変身するレシピ】5日目 指導する相手が自分で考える習慣をつくる

2015/11/27 10:00

<5日目> 指導する相手が自分で考える習慣をつくる

きょうのポイントは、相手が自分で考えて行動できるようにしむけることです。

サッカーでトップクラスのチームの指導にあたった経験をもっておられる監督にお話をうかがいました。その監督が大切にしているコーチングのポイントのひとつに、「教え過ぎない」ことがあります。このことについて、次のように話してもらいました。


「全部型にはめたら、ある程度のレベルまで急激に上がりますよ。僕はサテライトで大失敗したんですけど、こうやってこうやってって大体パターンを決めて行くわけですよ。そうすると、一定のレベルまでポーンと上がるわけです。ところが、そこから上に全く行かなくなったんですよ。全部つぶしてしまわなきゃいけないぐらいいかなくなった。そこには、自分で発想して自分で判断するっていうものを残してなかったから、そこから上へは行かなかったんです。」(サッカー日本代表チーム監督)


このように、優れた指導者は、型にはめる指導と、相手が自分で判断する力の育成のバランスを保ちます。ところが相手が育たない指導者は、一つひとつの動作や行動について問題を表面的に解決するような助言や指示を多く与えるため、自分で問題を解決する能力が育たない、という指摘もなされています。


<考えさせるポイント>

・自分の行動を自分で決める

・いくつかの選択肢から判断する

・考える手がかりを自分で探す

・失敗する権利が与えられる

・圧力や要求というより招待の形で

・結果として責任感が生まれる


また、ある高校バスケットボール指導者は、コーチになったばかりの自分をふり返り、次のように語っています。


「コーチになりたての頃は、とにかく勝たなきゃ、結果を出さなきゃと思って焦っていました。自分なりに熱意をもっていたのですが、それが空回りしてたんですね。だから、練習中も、試合中も、どなったり、叱ったりの連続でした。今考えると、悪い行動だけをみて、そこを早く直すことだけを考えていたんですね。選手は委縮してプレーが小さくなるし、やらされ感をもって練習するし、選手との信頼関係も悪くなるし、悪循環でしたね。」(高校バスケットボール全国優勝監督)


悪いところの修正の指摘がよい指導であるという信念のもと、批判と叱責に終始し、自分たちで考える余地を残さなかったようです。それでは、選手のやる気という点でも、選手との信頼関係という点でも、そして競技力向上という点でも、よい成果は期待できません。


現代の名工を受賞されたメッキ職人の方も、同様のことを語っています。

「メッキっていうのは、現場では全て応用問題なんだね。教科書通りの注文なんてこない。だから、常に自分の知識と経験を総動員して、考えて作っていく力をつけないといけない。「こうしようと思います」って言ってきたら、俺には多分ここが問題で、こういう失敗するなってわかっていても、「いいんじゃないか、やってごらんよ」と言いますよ。やって失敗して考えて、次に進めばいい。」(現代の名工)


このように、自分で考えて、やってみて、失敗して学んでいくことの重要性については、「知識の活性化」という研究成果が説明しています。ブランスフォード(1989)は、「知っている知識」と「実際に使える知識」にギャップがある点について興味深い研究成果を報告しています。活性化された知識は、知識と利用可能な条件が結びついた知識であり、必要な場面で使うことができる適用可能な記憶に基づいているものです。


一方の不活性な知識は、知っていても必要な時に活性化しない知識で、機械的な記憶に基づくものです。両者の違いは、記憶の中に知識がどのように貯蔵されているかがポイントになります。つまり、問題解決状況の文脈の中で、自分ならどうするか、という問いに基づいて覚えた知識は、実際の場面で使える活性化された知識になるのです。だからこそ、自分で考えて、失敗を経験しながら覚えていくようなしかけをつくることが、よいコーチの役割なのかもしれません。


<きょうのまとめ>

さて、きょうの話をまとめてみると、「よいコーチ」のこつとして次の2つがあげられます。

1.自分で考える習慣をつくってあげる

2.ミスや失敗を責めるのではなく、そこから学ぶことを重視させる


以上、5日間にわたってコーチングのコツをみてきました。

5日間全てで出そろったコーチングのこつは以下の通りです。

1.相手に対して、そして自分に対して、ダメだ、できない、失敗する、という先入観や思い込みを捨てる。

2.相手の具体的な行動で解決を目指す

3.相手の力を信じて期待する

4.大きな目標と小さな目標を明確にして共有する。

5.目標に対して、今、何ができて、何ができないのかを明確にする

6.どのようにして目標を達成するか、計画を具体化する

7.目標を達成した際のわくわく感をもつ

8.小さい目標を達成して、成功を実感させながら、一歩一歩大きな目標に近づいていく

9.はじめにチームの明確なルールを決めるように促す

10.相手に対して、指示命令をするのではなく、まず問いかける

11.相手の話をじっくり聞く

12.自分で考える習慣をつくってあげる

13.ミスや失敗を責めるのではなく、そこから学ぶことを重視させる


以上のようなコツをうまくアレンジして使っていただければと思います。

コーチングのゴールは、一言で言えばコーチがいなくなって相手が一人で歩いていくことです。つまり、コーチがいなくても相手が自立的に考え行動ができることが最終的なゴールなのです。


繰り返して申し上げますが、あくまでもコーチングは手段であって目的ではありません。また、教育的なかかわりのひとつの手段であって、万能ではありません。そして、単なるテクニックではなく、相手の力に期待して最大限に引き出していこうとする指導観に基づく教育的な態度であり、かかわりなのです。


<きょうの宿題>

5日間のコラムで書かれたことの中から、あなたの印象に残ることをひとつ選んで、明日、実行してみましょう。


参考文献:北村勝朗著「300人の達人研究からわかった上達の原則」CCCメディアハウス 2015年


配信日程:11月30日(月)午前10時ごろ配信予定


※本日のコラムは2015年9月18日に配信したものをアンコール企画として再配信しています。



【プロフィール】

北村勝朗(きたむら かつろう)

東北大学大学院教育情報学研究部教授

どうしたら人の才能は開花するのか、という疑問について、熟達化とコーチングの視点から研究に取り組んでいる。

主要な著書に『300人の達人研究からわかった上達の原則』(CCCメディアハウス、2015年)、編著書に『わざ言語-感覚の共有を通しての「学び」へ』(慶應義塾大学出版会、2011年)、共著に『スポーツモチベーション』(大修館書店、2013年)、『理科大好き!の子どもを育てる』(北大路書房、2008年)など。

趣味 バイクツーリング、映画鑑賞、身体を動かすこと