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- 【「航空新世紀」~進化する飛行機の世界~】第3回 航空機のダイナミック・シミュレーション~より安全な飛行を目指して~
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【「航空新世紀」~進化する飛行機の世界~】第1回 MRJ開発に貢献した流れを感じる機能性塗料
2015/11/30 10:00
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去る11月11日「MRJ」(三菱リージョナルジェット)が初飛行に成功しました。MRJは日本初の国産ジェット旅客機で、全日空、日本航空を始めとするエアラインから400機を越える注文を受けています。
今MRJだけでなく、ホンダエアクラフトの自家用ジェット機「HONDAJET」、川崎重工業の「P-1哨戒機」と「C-2輸送機」と新型機が次々に開発されていて、日本の航空界はこれまでにない活況を呈しています。
今日から5回に渡って、このような航空機開発にかかわる様々な話題とともに、
私たちの研究室で行われている最先端の研究と航空関連教育プログラムの一端を紹介します。
「感圧塗料」~流れ場の革新的な可視化技術~
航空機が重力に逆らって浮揚できるのは、空気から受ける力によるものです。航空機を設計するには、この空気力を正確に予測しなければなりません。このためコンピュータを使った数値シミュレーションや大規模な風洞実験が行われています。
MRJの空力設計には、東北大の中橋和博元教授(現JAXA理事)や大林茂教授(現流体科学研究所長)が開発された計算コードが使用されました。大学の成果が実機開発にそのまま利用されたのは、画期的なことと言えます。
ただ、数値シミュレーションにも限界があり、精度を保証するには実験による検証が不可欠です。また、モデル化が難しい剥離や乱流遷移のような現象ではまだまだ実験の方が信頼性に優れていると言えます。
実験では、飛行速度に相当する一様な風を作り出す「風洞」と呼ばれる装置に航空機の精密な縮尺模型を入れて試験します。
風洞実験では模型に働く風圧分布の測定が必要になるのですが、模型に取り付けられるセンサーの数には限りがあります。そこで考え出されたのが、「感圧塗料」(Pressure Sensitive Paint[PSP])と呼ばれる機能性塗料です(図1)。
PSPには酸素濃度によって発光強度が変化する特殊な色素が含まれています。空気の成分の21%は酸素なので、風圧の変化が酸素濃度を介して発光強度の変化となって現れるのです。
この技術を用いると、PSP塗膜の発光分布をデジタルカメラで撮影することで圧力分布が求まります。
PSPで計測した航空機の主翼上面の圧力分布の一例を図2に示します。この実験は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が所有する高速風洞で行われました。
衝撃波の発生によって圧力が変化する様子が見事に可視化されています。残念ながらデータをお見せすることはできないのですが、我々が開発したPSP技術はJAXAが実施したMRJの風洞実験にも使用されました。
そこでは衝撃波や剥離によって生じる細かな圧力分布がPSPを使って計測されました。
さまざまな分野への感圧塗料の応用~自動車、スポーツ、そしてさらなる発展へ
このように便利な技術ですから、感圧塗料の応用は様々な分野へと拡がっています。私たちの研究室でも、自動車や高速鉄道を開発する企業との共同研究を行いました。
さらには、スポーツ工学研究の第一人者である山形大学の瀬尾和哉教授らと共同で、ラグビーボールの風洞実験にPSPを適用しました(図3)。
この実験でラグビーボールの表面の圧力分布が継ぎ目の位置によって大きく変化することがわかりました。ハイパントしたボールが左右に揺れるのは、このためだと考えられています。
初飛行に成功したとは言え、MRJが就航するまでには、まだまだやるべきことがあります。気が早すぎるかもしれませんが、ホンダジェットやMRJの後継機の開発に対しても期待が高まります。
ラグビーボールのPSP計測が、先日のワールドカップにおける日本チームの快進撃にどの程度役立ったかわかりませんが、今とても熱い日本の航空機開発に、私たちは感圧塗料技術で貢献したいと思っています。
<リンク:参考文献>
旅客機模型のPSP実験
http://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.2015-0025
ラグビーボールのPSP実験
http://link.springer.com/article/10. 1007%2Fs12650-009-0019-0#/page-1
次回は「第2回 すべてはライト兄弟から始まった~風洞技術の進化について」です。
配信日程:12月1日(火)午前10時ごろ配信予定
【プロフィール】
浅井 圭介(あさい・けいすけ)東北大学大学院工学研究科・教授
1956年、大阪府生まれ。京都大学工学部航空工学科卒業。航空宇宙技術研究所(現JAXA)に23年勤務した後、東北大学大学院に転任。1988-89年、客員研究員としてNASAラングレー研究センターに滞在。現在の研究テーマは先進的な風洞実験技術の開発、惑星探査のためのロコモーション技術の研究など。小学生のときからの飛行機マニアで、「世界の航空博物館&航空ショー」(共著)、NEWTON別冊「航空機のテクノロジー」(監修)などの著書がある。
去る11月11日「MRJ」(三菱リージョナルジェット)が初飛行に成功しました。MRJは日本初の国産ジェット旅客機で、全日空、日本航空を始めとするエアラインから400機を越える注文を受けています。
今MRJだけでなく、ホンダエアクラフトの自家用ジェット機「HONDAJET」、川崎重工業の「P-1哨戒機」と「C-2輸送機」と新型機が次々に開発されていて、日本の航空界はこれまでにない活況を呈しています。
今日から5回に渡って、このような航空機開発にかかわる様々な話題とともに、
私たちの研究室で行われている最先端の研究と航空関連教育プログラムの一端を紹介します。
「感圧塗料」~流れ場の革新的な可視化技術~
航空機が重力に逆らって浮揚できるのは、空気から受ける力によるものです。航空機を設計するには、この空気力を正確に予測しなければなりません。このためコンピュータを使った数値シミュレーションや大規模な風洞実験が行われています。
MRJの空力設計には、東北大の中橋和博元教授(現JAXA理事)や大林茂教授(現流体科学研究所長)が開発された計算コードが使用されました。大学の成果が実機開発にそのまま利用されたのは、画期的なことと言えます。
ただ、数値シミュレーションにも限界があり、精度を保証するには実験による検証が不可欠です。また、モデル化が難しい剥離や乱流遷移のような現象ではまだまだ実験の方が信頼性に優れていると言えます。
実験では、飛行速度に相当する一様な風を作り出す「風洞」と呼ばれる装置に航空機の精密な縮尺模型を入れて試験します。
風洞実験では模型に働く風圧分布の測定が必要になるのですが、模型に取り付けられるセンサーの数には限りがあります。そこで考え出されたのが、「感圧塗料」(Pressure Sensitive Paint[PSP])と呼ばれる機能性塗料です(図1)。
PSPには酸素濃度によって発光強度が変化する特殊な色素が含まれています。空気の成分の21%は酸素なので、風圧の変化が酸素濃度を介して発光強度の変化となって現れるのです。
この技術を用いると、PSP塗膜の発光分布をデジタルカメラで撮影することで圧力分布が求まります。
PSPで計測した航空機の主翼上面の圧力分布の一例を図2に示します。この実験は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が所有する高速風洞で行われました。
衝撃波の発生によって圧力が変化する様子が見事に可視化されています。残念ながらデータをお見せすることはできないのですが、我々が開発したPSP技術はJAXAが実施したMRJの風洞実験にも使用されました。
そこでは衝撃波や剥離によって生じる細かな圧力分布がPSPを使って計測されました。
さまざまな分野への感圧塗料の応用~自動車、スポーツ、そしてさらなる発展へ
このように便利な技術ですから、感圧塗料の応用は様々な分野へと拡がっています。私たちの研究室でも、自動車や高速鉄道を開発する企業との共同研究を行いました。
さらには、スポーツ工学研究の第一人者である山形大学の瀬尾和哉教授らと共同で、ラグビーボールの風洞実験にPSPを適用しました(図3)。
この実験でラグビーボールの表面の圧力分布が継ぎ目の位置によって大きく変化することがわかりました。ハイパントしたボールが左右に揺れるのは、このためだと考えられています。
初飛行に成功したとは言え、MRJが就航するまでには、まだまだやるべきことがあります。気が早すぎるかもしれませんが、ホンダジェットやMRJの後継機の開発に対しても期待が高まります。
ラグビーボールのPSP計測が、先日のワールドカップにおける日本チームの快進撃にどの程度役立ったかわかりませんが、今とても熱い日本の航空機開発に、私たちは感圧塗料技術で貢献したいと思っています。
<リンク:参考文献>
旅客機模型のPSP実験
http://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.2015-0025
ラグビーボールのPSP実験
http://link.springer.com/article/10. 1007%2Fs12650-009-0019-0#/page-1
次回は「第2回 すべてはライト兄弟から始まった~風洞技術の進化について」です。
配信日程:12月1日(火)午前10時ごろ配信予定
【プロフィール】
浅井 圭介(あさい・けいすけ)東北大学大学院工学研究科・教授
1956年、大阪府生まれ。京都大学工学部航空工学科卒業。航空宇宙技術研究所(現JAXA)に23年勤務した後、東北大学大学院に転任。1988-89年、客員研究員としてNASAラングレー研究センターに滞在。現在の研究テーマは先進的な風洞実験技術の開発、惑星探査のためのロコモーション技術の研究など。小学生のときからの飛行機マニアで、「世界の航空博物館&航空ショー」(共著)、NEWTON別冊「航空機のテクノロジー」(監修)などの著書がある。