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【機能性ヨーグルトのひみつ】第2回 最近よく耳にするプロバイオティクスと腸内フローラとは?

2015/12/08 10:00

〈プロバイオティクスとは〉
1989年にイギリスの微生物学者のFullerは、ヒトの腸内細菌のバランスを改善して健康に有益な働きをする生きた微生物を「プロバイオティクス」と呼ぶことを提唱しました。現在では、定義を「体に好影響を与える生菌や生菌を含む食品等」と多少変わりましたが、世界中でこの名称が使用されています。お腹の菌を全滅させてしまう抗生物質(アンチバイオテイクス)に対比して作られた名称です。

最近では日本でも高齢者が増え、加齢により免疫力が弱まることによる疾病が増えていますので、プロバイオティクスが最近注目を集めています。ヒトの腸管には免疫に関係するリンパ球の約60%が存在すると考えられていますので、ヒトの健康長寿には腸管内の微生物の大きな影響を無視するわけにはいかなくなっています。

プロバイオティクスとは、具体的にはヒト腸管内で活躍してくれる「乳酸菌」や「ビフィズス菌」を指しています。

これらの菌は、腸内で悪い酸やガスや物質を全く作らないために、代表的な善玉菌と考えられています。ビフィズス菌も乳酸菌の仲間ですが、酢酸を乳酸よりも多く作る(ヘテロ発酵)ことや酸素に特に弱い(偏性嫌気性菌)点で異なります。そのため、厳密には乳酸菌とは区別されています。

図1には、ビフィズス菌の電子顕微鏡写真を示しました。ビフィズス菌は、枝分かれ構造がとてもユニークで、他の菌には見られない大きな特徴があります。最近のヨーグルトでは、プロバイオティクスをヨーグルトに添加しているものが増えています。しかし、多くのプロバイオティクスはヒト腸管内容物(糞便)から取り出したものが多いですから、乳中では増殖しないものが多いのです。そこで、ヨーグルトには、特別な培養で別に増やしたプロバイオテイクスを添加するのが一般的です。



〈血液型を区別できる乳酸菌を発見!?〉
ヨーグルトから摂ったプロバイオティクスが、ヒト腸内で作る乳酸や酢酸は、酸性に弱い病原菌や悪玉菌には強力に作用し、それらの排除に非常に役立ちます。プロバイオティクスは、胃酸耐性・胆汁酸耐性・腸管付着性などの性質を持つために腸内で増殖して、便秘や腸内細菌バランスの改善、腸内腐敗物質の低減などが大いに期待されます。

私たちは、ヒト腸管に棲む乳酸菌の中に、ABO式の血液型を認識して結合する「血液型乳酸菌」が存在することを、世界で初めて発見しました。各自の血液型に合った乳酸菌が、私たちの腸内健康を守っていることが推定されます。ヒトにはヒトの乳酸菌、A型の方にはA型の乳酸菌が間違いなく存在すると考えて良いでしょう。これらの乳酸菌の個別の機能性はまだ分かっていませんが、腸管上皮の粘液成分に発現している血液型により異なる血液型抗原(A,B,H抗原)を認識して結合増殖する病原菌などの生育を阻害することで、宿主の健康に役立っていることが予測されています。

〈ヒト腸内には善玉菌はとても少なく、ヨーグルトで補うことが大切〉
ヒト腸内には100種類・100兆個の微生物が棲んでいる、と長い間考えられていました。また、腸内細菌叢は沢山の菌が棲んでいるために「腸内フローラ」と呼ばれます。フローラとは、お花畑というしゃれた名前です。

最新の遺伝子を全て調べるメタゲノム研究では、ヒト腸管には100種類どころか1000種類以上の多種類の菌が存在し、その多様性(ダイバーシティー)がヒトの健康を守っていることが推定されています。

腸に異常のある方ではこの多様性が失われており、そのことが疾病の原因となっているようです。この研究では、ヒト腸内フローラには現在の技術では培養の出来ない日和見菌が圧倒的に多く、一方善玉菌の数は非常に少なく、日々のストレスにより減少傾向にあることが判りました。

この研究では同様に、日頃から自分の腸内のプロバイオティクスを大切にし、菌数を減らさないようにストレスを貯めないこと、また外部から良い菌を補うことが健康維持に極めて大切であることを教えてくれています。やはり、「ヨーグルトの出番」かもしれません。腸内有用菌の減ることを防ぐことはなかなか容易ではありませんので、ヨーグルトなどで恒常的にプロバイオティクスを外部から補うことの重要性を教えてくれています。
(明日の水曜日に続く)


次回は「第3回 ヨーグルトには食べる時期と食べ方がある?」です。
配信日程:12月09日(水)午前10時ごろ配信予定

※本日のコラムは2015年9月23日に配信したものをアンコール企画として再配信しています。

【プロフィール】
齋藤 忠夫(さいとう ただお)
東北大学大学院 農学研究科教授
より優れた乳酸菌を用いて新機能性ヨーグルトの開発に取り組んでいる。
著書には『畜産物利用学』(文永堂出版、2011年)他、30冊がある。
趣味 ピアノ演奏