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【人間関係は犯罪を防げるか?】第3回 なぜ自営業の人間関係は犯罪を防ぐのか?

2015/12/16 10:00

社会学と心理学の視点から見ると、東京下町の自営業の人々の人間関係が犯罪を防ぐ理由は3つあります。

第1は地域に対する心理的な愛着です。愛着がある地域を犯罪から守ろうとするのは自然なことで、そのために共同清掃などで街並みをきれいにして「ここは住民がしっかり協力している地域だ」ということを犯罪者に知らせたり、当番制の夜回りをして犯罪ができないようにしたりします。

第2は相互監視機能です。東京下町の自営業の場合、家の1階が店舗や工場で、2階、3階に住んでいます。下の写真は私の実家があった近くのお弁当屋さんです。このお店の人に聞いたわけではありませんが、おそらく昼間は1階で仕事をして、夜は2階、3階に住んでいると思われます。



そうすると、昼間は1階の店舗や工場から、また夜は2階の窓から町の様子を見ることができます。犯罪者はこのような人の目が気になり、犯罪に踏み出すことをためらうでしょう。

また互いに様子を見あっているという相互監視行動は地元の人たちが悪いことをするのを防ぐことにもなります。ちょうど、そり遊びの後に怒られた私たちがそれからは段ボールをきちんと片付けるようになったように。

第3は自営業の人々の長期的な付き合いです。前回お話ししたように、自営業では子供が親の家業を継ぐことがよくあります。そうすると、世代を越えた付き合いになります。また子供の頃から同じ地域に住んでいるので、同じ小中学校の同級生や先輩・後輩といった関係もあるでしょう。

このような長期にわたる、いつ終わるとも分からない人間関係では、人々の間で協力関係が維持されることが知られています。そうすると、自分から悪いことをしようとすることもなく、また先にお話しした共同清掃や夜回りなどの協力行動も比較的スムーズに行うことができます。

さて、ここまで自営業の人々の長期的な人間関係が犯罪を防ぐ理由についてお話してきました。しかし東京の下町といえども時代とともに変わっていきます。グローバリゼーションや社会の流動化によりさまざまな人々が新しく下町に住むようになり、長期に住む人も少なくなっているかもしれません。

そこで、私は倉沢進先生の社会地図作成の方法に従って、1975年と2005年の東京23区の社会地図を作って比較することにしました。この比較の結果については次回お話しすることにします。


次回は「第4回 人間関係が犯罪を抑える力の変化」です。
配信日程:12月17日(木)午前10時ごろ配信予定


【プロフィール】
佐藤 嘉倫
東北大学大学院文学研究科教授
合理的選択理論の視点から、信頼や社会的不平等の解明に取り組んでいる。
編著に『ソーシャル・キャピタルと格差社会』(東京大学出版会、2014年)がある。
趣味 ジャズ鑑賞、ギター、料理、スキー