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【人間関係は犯罪を防げるか?】第5回 グローバリゼーションの中の人間関係――「寛容」の大切さ

2015/12/18 10:00

前回に東京の下町で自営業の位置づけや意味が変化したため、犯罪を抑える力が弱くなったというお話をしました。しかしこの変化は悪いことばかりではありません。従来の自営業の世界に若い人たちが新しいビジネスの形で参入して、自営業の多様性が高まっています。このことをチャンスにする発想が必要です。

第2回で、人間関係は社会科学者の間で社会関係資本と呼ばれている、というお話をしました。この社会関係資本には2つの種類があります。

同じような人々が密な関係を継続する結束型社会関係資本と多様な人々がゆるやかな関係でつながる橋渡し型社会関係資本です。

東京下町の人間関係はまさに結束型社会関係資本の典型例です。このタイプの社会関係資本の長所は、前にもお話ししましたが、お互いに行動を調整して協力し合うことが容易にできることです。短所は、自分たちと違う人々とつながりにくいので外部から新しいアイディアや情報が入りにくいことです。

逆に、橋渡し型社会関係資本の長所は、新しいアイディアや情報が入って来ることです。短所は、結束型社会関係資本に比べて、お互いの行動を調整することが難しいことです。

こう考えると、地域の社会関係資本がどちらか一方だとまずくて、両者のバランスが大切だといえます。東京の下町は自営業の人々による結束型社会関係資本が強かったのですが、これが弱まっている以上、橋渡し型社会関係資本を強めて、両者のバランスを取ることが必要です。

具体的には、新しく下町で開業する若い自営業者を受け入れて、ゆるやかな、しかし継続的な人間関係を構築することです。

話は少し変わりますが、現在、多くの町内会や自治体では役員が高齢化したり、そもそも役員のなり手がいなかったりして、活動が停滞しています。

このことを講義で話して、学生たちにどうすればいいか尋ねました。すると一人の学生が「若くてイケメンの男の人を会長にすれば、若い女性も活動に参加するようになる」というアイディアを出しました。そこで私は「若い女性が集まるところには若い男性が集まるというのがマーケティングの常識なので、町内会や自治会の活性化につながるだろう」と話を展開しました。

このアイディアで重要なのは、高齢者だけが活動している町内会や自治体に若い人を呼び入れて多様性を高めようという発想です。東京の下町でもこの多様性を高めることで、防犯について新しいアイディアが生まれていくのではないでしょうか。

この多様性を高めるためのキーワードは「寛容」です。

自分と異なった他人を受け入れる心構えといったらいいでしょうか。従来の自営業の人々は新しく参入してきた若い人々に寛容になり、若い人々も従来の自営業の人々に寛容になることで、両者の間で橋渡し型社会関係資本が構築されていくでしょう。

この寛容という心構えは、グローバリゼーションの進行する現代社会ではとても大切なことです。私の実家があったところでもエスニック・レストランなどで多様な外国人が働いています。日本人と外国人を区別することなく、寛容の精神で同じ地域に住む住民として受け入れていくことで、結束型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本の良いバランスが取れるのではないでしょうか。

この社会関係資本については実に多くの研究者が世界中で研究しています。また内閣府や世界銀行など国内外の公的機関でも研究が進められています。別の機会にこのことについてもお話しできればと思っています。


次回は「「自分の顔」をめぐる謎をめぐる謎」です。
配信日程:12月21日(月)午前10時ごろ配信予定


【プロフィール】
佐藤 嘉倫
東北大学大学院文学研究科教授
合理的選択理論の視点から、信頼や社会的不平等の解明に取り組んでいる。
編著に『ソーシャル・キャピタルと格差社会』(東京大学出版会、2014年)がある。
趣味 ジャズ鑑賞、ギター、料理、スキー