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【「自分の顔」をめぐる謎】第3回 自分の顔がわからない?

2015/12/23 10:00

鏡の中の自己像を認知できなくなるという不思議な症状が、認知症の患者さんでしばしば見られます。


鏡の前で医者と患者が話しています。

医者(鏡の中の患者を指して)「この人は誰ですか?」

患者「私の友人です。最近私について来るんです。」

医者(鏡の中の医者自身を指して)「ではこの人は?」

患者「先生じゃないですか」


医者の顔がわかるということは、患者さんは顔の認知ができないわけではないようです。

もちろんふざけているわけでもありません。

しかし不思議なことに、患者さんは時々鏡を見ながら櫛をつかって自分の髪をとかすこともあります。


この謎の症状の原因は、「誤った考えの修正」ができなくなることであると考えられています。


例えば、鏡に映った自分の顔が一瞬、別人のように見えることは誰にでもあることです。

その時に人は「これは別人だ」という印象を一度は持つかもしれません。

しかし健常な人は、それを意識する以前に、この誤った考えを一瞬で修正します(今日は疲れているな、とか)。


常識的に考えて、鏡に映っているのは自分以外にありえないからです。

あまり意識には上りませんが、我々は知識や文脈にもとづいて、常に自分の考えの妥当性を確認・修正しているのです。


重度の認知症では、このような誤った考えの荒唐無稽さに気づいたり、修正したりすることができず、そのまま真実として信じてしまうことがあります。

それがこのような不思議な症状を生んでいると考えられています。


もしこれが本当だとすれば、自己鏡像認知というのは、非常に高度な概念処理能力だと考えられます。



次回は「第4回 それなら脳に聞いてみよう」です。

配信日程:12月24日(木)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

杉浦 元亮

東北大学 加齢医学研究所/災害科学国際研究所 准教授

「自己」をキーワードに、人間が物理的・社会的環境と適応的に関わる脳メカニズムの解明に取り組んでいる。

さらにこの新しい人間科学を高齢化や災害などの社会問題へ応用することを目指している。