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【「自分の顔」をめぐる謎】第4回 それなら脳に聞いてみよう

2015/12/24 10:00

さて、鏡の中の自己像とはいったい何でしょうか。


発達心理学や実験心理学からは「自分が思ったとおりに動く」という単純な説明が返ってきます。

認知症患者の症状からは「誤った考えの修正」という非常に高度な概念処理能力が鍵だということになります。


鏡像自己認知能力を持つ動物の進化論的考察からは、「社会性」というキーワードが浮かんできました。

3つの考え方は全く違います。

いったい、どれが正しいのでしょうか。


私のような認知神経科学者(心の謎に取り組む脳科学者)は、こんな時に脳機能イメージングという方法を使います。


自分の解明したい心の謎について実験をデザインし、機能的MRIといった技術を使って脳の活動の様子を画像化することで、特定の機能に関わる脳領域の活動を調べます。

この方法を使って、「自己像を見ている時にだけ働く脳領域」がわかれば、自己像の真実が明らかになるかもしれません。


「自己像を見ている時にだけ働く脳領域」は、被験者さんに自分の顔の写真を見てもらえば活動するはずです。

ここまでは誰でも思いつくでしょう。


しかしひとつ問題があります。

計測した脳活動には、単純な顔の視覚処理や記憶との照合に関わる「余分な」脳活動が混ざってしまうことです。

「自己像を見ている時にだけ働く脳領域」だけを抜き出すにはどうすればいいでしょう。

そのためにどう実験をデザインするかが認知神経科学者の腕の見せ所です。


今回は、被験者さんの自分の顔だけでなく、友人の顔写真を見ている時の脳活動も計測します。

その画像には顔の視覚処理などに関わる余分な脳活動がすべて含まれます。

自分の顔を見ている時の脳活動と、友人の顔を見ている時の脳活動を比較すれば、「自己像を見ている時にだけ働く脳領域」がわかるはずです。


図1がその結果です(右大脳半球を横から見る)。

自己像を見ている時にだけ働く脳領域(赤~黄)がいくつかあることがわかります。

逆に自己像を見ている時にだけ活動が下がる領域(青)も見つかりました。






<図1>機能的MRIで明らかとなった脳活動(大脳右半球を横から見る)

自分の顔を見ている時の脳活動(a)から友人の顔を見ている時の脳活動(b)を引き算すると、(c)自己像を見ている時に活動が上がる場所(赤~黄)と下がる場所(青)が明らかとなる。


この結果には「自己像とは何か」に対する答えが含まれています。

ただし、それを理解するためには(残念ながら)少々脳科学の知識が必要になります。



次回は「第5回 脳が語る自己の多面性」です。

配信日程:12月25日(金)午前10時ごろ配信予定



【プロフィール】

杉浦 元亮

東北大学 加齢医学研究所/災害科学国際研究所 准教授

「自己」をキーワードに、人間が物理的・社会的環境と適応的に関わる脳メカニズムの解明に取り組んでいる。

さらにこの新しい人間科学を高齢化や災害などの社会問題へ応用することを目指している。