都市の中の新しい認可保育園、その産声は聞かれるか?(後編)
2016/01/14 10:00
みやぎのボランティア市民活動情報誌 「月刊 杜の伝言板 ゆるる」 1月号より
都市の中の新しい認可保育園、その産声は聞かれるか?(後編)
=NPO法人朝市センター保育園 理事・園長 安達喜美子=
【保育園の誕生と、街なかの保育】
朝市センター保育園は、宮城県仙台市の中心部、JR仙台駅から徒歩4分の市場通りにあります。
交通の要衝、都心で働く人々の職場の近くの保育園という性格を持って1987年、朝市ビルの5階に誕生しました。
当時、産休明けから預けられる保育園、勤務時間と通勤時間に見合う長時間保育を行っている保育園が、仙台市内にはほとんどありませんでした。
働く若い子育て世代の力になりたいと保育園は産声を上げたのでした。
しかし、保育の環境としては苦労の多い場所でした。5階建てビルの5階部分100坪ほどが全て保育園のスペースで、年齢別の保育室に仕切られてはいましたが、自然からは最も遠い場所にありました。それでも、幸いなことに保育園が立地する市場通りは、生きのいい農産物や海産物はもちろん、朝から晩まで懸命に働く大人たちの汗や呼び声に溢れていました。
バーチャルなんかじゃないリアルな人間の労働が目の前に広がっていました。子どもたちは、それを五感で感じ取ることができる環境にあったのです。
また、不思議なことに、制約があればあるほど選択肢は多様になっていきました。土や水や草木を求めて毎日毎日散歩に繰り出すからです。街中が園庭です。「どんぐり公園」「こんこんさん」「メルヘンの里」「やまんばビル」などなどユニークな名前がついた散歩先。人工物だらけの街の中にも、愛おしい小さな自然がいくつも見いだされていきました。
4、5歳児は夏に蔵王の山麓で1泊2日の合宿を行います。毎年欠かさず取り組むのは、ニジマスの掴み取りとそれを捌いて食べる活動です。生き物の命を自分の手の中に感じ、そして、よく手入れされた道具を操り自分で捌き、その場で焼いて食べます。
「生き物の命をいただく」体験をした子どもたちは、市場に並ぶまでの魚や肉や野菜の生涯に思いをはせ、食事の時の「いただきます」を深くかみしめるようになります。市場の魚屋さんに保育園に来てもらい、鮭や鰹などの大きな魚を捌く場面をみんなで体験する日もありますが、生き物と食べ物とそして、人間の労働がつながりを持って存在していることを知る機会となっています。
【挑戦は続く】
「待機児童が増え続ける仙台市で、良質な保育資源を1つでもなくしてはならない」「交通の要衝に保育所はもっと必要」そして「28年間、仙台朝市の中で育まれた特色ある保育を絶やしてはならない」というメッセージが、今、市民の中に共感を持って広がっていくのを感じます。
保有金確保も工事費調達もいずれも小さな保育園にとっては身の丈に余る重量級の課題ですが、目をそむけず向き合っていく道を歩んでいきます。
一方、乳幼児が育ち合う多様な場の存続、新たな創出を行政は本気で支援してほしいと思います。抜本的な財政支出が求められることですが、それは、大人の都合だけではなく、全ての子どもの豊かに育つ権利を保障するという視点からも、未来社会への責任であると思うのです。
最初から選び取ることができるものもありますが、否応なく与えられる条件もあります。朝市センター保育園の歴史は「制約ある条件の中で、少しでもより良い方へ」と地べたを這うような一歩一歩の歩みであったと思います。その一歩一歩がどこにもない保育内容と歴史を作ってきました。
その醸し出す空気を吸って子どもたちと共に大人たちも成長してきました。
朝市センター保育園の挑戦は、その延長線上に都市の中の新しい認可保育園、みんなの故郷としての保育園を築いていくことです。
NPO法人朝市センター保育園
〒980-0021 仙台市青葉区中央4-3-28
朝市ビル5階
●TEL: 022-221-9350
●URL: http://asaichikko.jimdo.com/
みやぎのボランティア市民活動情報誌
「月刊 杜の伝言板 ゆるる」 1月号より