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東日本大地震から5年をふりかえる「第1回 震災のとき、何が不安だったのか、誰に最初に連絡を、そして情報はどこから・・・。」

2016/03/07 11:11

第1回 震災のとき、何が不安だったのか、誰に最初に連絡を、そして情報はどこから・・・。
今回から5回にわたって、東日本大震災からの5年を振り返ります。
2011年(平成23年)3月11日14時46分18秒、仙台市から太平洋に70km離れた宮城県沖の海底でマグニチュード9.0という非常に大きな地震が発生しました。

阪神淡路大震災は明け方であったので、多くの人が在宅でしたが、東日本大震災はちょうど、日中であったので、職場や街中におられた人も多かったと思います。そこでまず私が気になったのは、地震が起きたとき皆さんがどのようなことを不安に感じたのかということです。

このみんなのゼミでは、皆さんの市民としての意見で社会を考えようということを大事にしていますので、ここでも、政府発表の公式統計や復興庁の見解よりも、宮城県民の皆さんに聞いたアンケートの結果を中心に、さまざまなことを考えてみましょう。

このコラムで使うアンケート調査は、東北大学吉田研究室が2013年3月に被災3県(岩手・宮城・福島)と首都圏近郊(埼玉県・茨城県・千葉県・東京都)を対象とし、838名から回答を得たものです。

1.被災時に不安に思ったこと
ここでは、震災時に不安に思ったことをアンケートで2つまで選んでもらった結果を表1として地域別に集計しました。被災地以外の首都圏(ここでは茨城、埼玉、東京、千葉)全体の集計結果では、「家族・親戚の安否」ということが7割近くに達しています。

もちろん被災地3県でも同様に、「家族・親戚の安否」が最も不安におもったこととして挙げられています。その次が電気・ガス・水道などのいわゆる「ライフライン」のことです。

特に、地域別にみて注目するべき点は福島県の「原子力発電所」に対する不安です。それに加えて、福島では「さらなる地震の発生」が心配事項として高くあげられています。これらは当然に、東京電力福島第1・第2原子力発電所のトラブルに関連したものです。

2.誰に連絡を取ろうとしたか
1.では被災当時の不安事項として「家族や親類の安否」を挙げた人が一番多かったことをみました。

次に、具体的に「まず誰に連絡を取ろうとしたか」ということを見てみましょう。当時は大きな揺れに続いて停電もおこり、携帯も十分に機能しなかったとは思いますが、繰り返す余震の中で、やはり家族のことなどが心配になったと思います。

そこで以下では、東日本大震災が起こった時に、皆さんは最初に誰に連絡を取ろうとしたのかということをアンケート調査した結果を見てみたいと思います。

表2の結果を見ますと、「配偶者」と「両親」がともに30%以上となっており、3人に1人がこのどちらかと連絡を取ろうとしたことがわかります。その次が「子ども」であり、多くの人が家族の安否を気にかけていたことがわかります。

ところが、ここで気になる集計結果があります。表3は表2と同じ被災時に最初に連絡を取ろうとした相手に関し、男女別により詳しく集計をしたものです。

表3の結果を見ると、男性と女性では最初に連絡を取ろうとした相手が大きく異なっていることがわかります。

具体的には、男性は被災時に最初に連絡を取ろうとした相手として「配偶者」が最も多く、41.3%となっています。すなわち、地震の起こった後に2人に1人に近い男性がまず妻に連絡を取ろうとしたことがわかります。

これに対して、女性の方は「配偶者」(夫)にまず連絡を取ろうとした人は19.9%で5人に1人ぐらいしかいなかったことがわかります。代わって、女性がもっとも多く連絡を取ろうとした相手は、同じ家族でも「両親」であったことがわかります。

この男性と女性のいわば「すれ違い」問題は、宮城県内でも同様なのでしょうか。表3は岩手、宮城、福島、茨城、埼玉、東京、千葉の全体の回答者での集計結果でした。続く表4は、同じアンケートを宮城県だけについて集計したものです。

表4を見ると、やはり宮城県でも「男性は配偶者、女性は両親」という傾向が見て取れるようです。ただ少し、全国と違うのは、宮城県の女性は子供に連絡を取ろうした人が24%と表3の全体の集計結果の2倍になっていることです。

すなわち宮城の女性は、両親(尊属)に連絡をとりつつ、また子ども(卑属)にも連絡を取ろうといういわば「直系親族の安否志向」であったことがわかります。

3.安心のための情報はどこから
これまでの結果を見ると、不安事項や家族の安否を知りたいという被災者のニーズのため、情報が必要であったと思います。そこで最後に、被災時の情報をどのようなルートから入手していたのかについてのアンケート結果を見ることとします。

表5を見ると、宮城県は停電していたこともあって、通常の「テレビ」から情報を得た人の割合は15%以下と少なくなっています。

それに代わって、「ラジオ」や「携帯電話のワンセグテレビ」から情報を得た人の割合は宮城県で高くなっています。

また、一般的な通信手段に困難さがあったためか、「クチコミ」で情報を得た人の割合も宮城県で高くなっています。

逆に、「電子メールやツイッター等」や「インターネットのWEBサイト」から情報を得た人の割合は、停電していたこともあってか、低くなっています。

今回は、震災が起きた時の不安事項、連絡を取ろうとした相手、情報の入手先など、被災直後状況を中心にアンケート調査から当時の状況を振り返ってみました。

次回は、引き続きアンケート調査結果から、震災に対する行政の対応についての意見を見てみることにします。

次回は「第2回 その時、もっとも頼りになったのは誰?。」です。
配信日程:3月8日(火) 予定


【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院 経済学研究科・災害科学国際研究所(兼任) 教授
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、震災復興などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。