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東日本大地震から5年をふりかえる「第3回 震災後、暮らしや健康はどの程度回復した?」

2016/03/09 10:30

第3回 震災後、暮らしや健康はどの程度回復した?
今回は東日本大震災から5年目を迎え、宮城県民の皆さんに聞いたアンケートの結果を中心にして、さまざまなことを振り返っています。

今回は、震災前、震災直後、5年たった現在で、暮らしや健康がどのように変化したかについて見てみることにしましょう。

今回のコラムで使用するアンケート調査は、今年の2月に、東北大学吉田研究室が被災3県(岩手・宮城・福島)と東京都を対象として、835人から回答を得たものです。このうち、宮城県の回答を特別に集計してみることとします。

1.住環境の変化はどうか
はじめに、住環境の変化について尋ねた結果を見ることとします。

震災前は「かなり・まあよい」とする人は、40.9%でした。

震災後1年間は、これが27.2%と大きく下がった一方で、「やや・とてもわるい」が8.6から29.3%に3倍以上に増え、宮城県民の住環境は震災により悪くなったことが伺えます。

そして現在の住環境ですが。43.4%の人が「かなり・まあよい」と答えており、住環境は回復してきたことがわかります。

同様に「ややわるい」とする人は、現在は7.7%で、震災後1年間の23.8%から震災前の7.7%と同程度まで低下しています。

しかし「とてもわるい」とする人、震災前は0.9%であったのに対し、現在も2.1%と少しながら回復できていない人もいることがわかります。

2.経済生活の変化はどうか
次に、経済生活や収入の変化について聞いてみましょう。

表2には経済生活・収入のアンケート結果を示してあります。「かなりよい」「まあよい」というひとは、震災前は23.4%でしたが、震災後1年では14.4%と10パーセントポイント近く下落しました。

しかし、現在では20.0%とある程度回復しています。

この、震災時にいったん下がって、現在では回復傾向にあるというパターンは住環境のケースと似ています。

しかし、住環境のときの結果と違っていることがあります。それは、経済生活では、「ややわるい」や「とてもわるい」という人の割合がどんどん増えているということです。

住宅などのハードウエアの復興は、一定程度進んでいるものの、生活を支える基盤である経済・収入面は回復できつつある人と、そうでない人に2極分化していることが心配されます。

3.健康や生活の意欲の状況はどうか
住宅などのハード、そして生活の基盤である経済面(マネー)につづいて、健康面(ヒーマン)についても見てみることにしましょう。

表3では、現在の健康状態を宮城県と東京都で比較したものです。

宮城県は「かなりよい」と「まあよい」が合わせて39.6%であるのに対し、被災地3県から離れた東京では46.5%と健康状態が良い人が多くなっています。

このため、宮城県では「ややわるい」という人が東京都より3%ポイントですが多くなっています。ただし、東京都では「とてもわるい」という人が2.3%あります。このことから、宮城県は健康に関して「ふつう」を中心にばらつきが小さくなっています。

健康一般に関しては、宮城県はことさらに東京都と比較して悪いというわけではないことがわかりました。さらに、健康への影響を詳しく知るため、メンタルヘルスに関連して仕事や社会生活に対する意欲についても質問をしてみました。その結果は表4に示されています。

表4をみると、「ややわるい」「とてもわるい」とする回答は、東京都では16.6%であるのに対して、宮城県では24.2%と高くなっています。

4.震災の「影響」を直接聞いてみる
上のような生活意欲に関して、「ややわるい」「とてもわるい」と答えた人に対し、東日本大震災の影響がどの程度あったのか、自己判断で回答してもらいました。その結果は表5に示されています。

表5を見ると、東京都では何らかの形で震災が生活意欲を悪化させることに影響していると答えた人は21.0%であったのに対し、宮城県では45.6%と倍以上の結果となっています。

その裏返しとして、東京都では震災は「全く悪く影響していない」という回答が50%以上であったのに対して、宮城県では36.8%となっています。

震災から5年が過ぎて、住宅や街並みはそれなりに普及したように見えても、経済面や生活における意欲はまだまだ十分に回復していないことが見て取れます。

このアンケート結果から、災害から5年が過ぎ、被災地へのケアはハード面から、生活、心理面へと次の段階にシフトしていかなければならないといえるでしょう。

次回は「みんなのゼミのアンケート結果を発表します」です。
次配信日程:3月11日(金) 予定

【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院 経済学研究科・災害科学国際研究所(兼任) 教授
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、震災復興などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。