東日本大地震から5年をふりかえる「第5回 みんなのゼミでのアンケート結果(2)」
2016/03/11 10:27
第5回 みんなのゼミでのアンケート結果(2)
今回は東日本大震災から5年目を迎え、宮城県民の皆さんに聞いたアンケートの結果を中心にして、さまざまなことを振り返っています。
最後の第5回は、3月1日(火)~3月8日(火)まで仙台放送アプリを通じて募った「みんなのゼミ」のアンケート結果のなかから「宮城県は変わったか?」という視点で見てみることにしましょう。
1.震災によって、宮城県の社会は変わったか
はじめに、「震災を契機に宮城県の社会は変わったと思いますか?」とする質問に対する回答結果を見てみることとしましょう。
以下の表1をみると、最も多くの人が変わったと感じたものは「宮城県以外の地域の人々の支援や絆が深まった」というものです。
この項目に変わったと回答した人の割合は、全回答者の30%を超えているので、およそ3人に1人の人は、県外の人の支援に絆を感じています。
また、「町内の身近な人々の結びつきや助け合いの気持ちが高まった」とする回答も30%に近い水準になっています。
震災を通じて宮城県の社会は、県内外の人間同士のつながりが深まっていると感じている人が多いことがわかります。このほか、「知事のリーダーシップ」や「災害に関する情報公開」が進んだことを挙げている人も5人に1人以上います。
逆に「市町村長のリーダーシップ」「復興庁からの支援」「被災地の物事を決めるのに行政は住民の意見を良く聞いている」等に関しては、よい方向に変わったとする回答は非常に少なくなっています。
また、「震災を機に自分の地域の人口減少や過疎化が加速された」や「被災地の物事を決めるのに中央集権的で民意が反映されていない」とする震災の負の影響に関する感想を持っている人もいます。そして、なによりも「震災を経て、宮城県の社会はむしろ悪くなった」とする人が1割程度いることは残念なことです。
表1 震災後の宮城県社会に対する評価
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答。
2.あなたの防災意識は変わりましたか
これまでは、震災後5年間までの社会への評価を中心にアンケート結果を紹介しましたが、次にみなさん自身の意識についてみてみることにしましょう。表2では「震災を契機にあなたの防災意識は変わりましたか」という質問に対する結果をまとめてあります。
これを見ますと「緊急地震速報などを入手できるように機器や携帯の設定をしている」とする人が7割近くに上っており、意識の高さがうかがえます。次に割合が多いのが「自宅に数日分の水や食料、防寒や医薬品を揃えている」とするもので6割の人が答えています。これは前回の震災で、停電や断水、店舗の休業などを経験したことから防災意識の高まりと考えられます。
その次は、「家族と災害が発生したときの連絡方法や行動を話し合っている」とするもので、35%前後になっています。
しかし、前回までのコラムで、最も心配であったことに「家族の安否」があげられていた割には、家族間の連絡方法に関する話し合いをしている人の割合は少ないように思われます。
これらの結果「災害前も現在も特別な防災のための備えをしてはいない」とする人は1割以下まで下がっており、宮城県民の防災意識は一定程度高まっていると判断されます。
表2 震災後の防災意識
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答。
3.復旧・復興を超えてこれからは何を
これまでのアンケートでは、震災後から現在までの皆さんの意見や状況について尋ねたアンケートの結果を紹介しました。次には、今後のことについて皆さんの意見を見てみたいと思います。
表3には「震災5年を経て、宮城県や地元の市町村に今後、震災復興政策として最も力をいれて取り組んでもらいたいことは何ですか」とする質問に対する回答結果をまとめてあります。これを見ると、最も多くの割合の人が力を入れてもらいたいと思った項目は、「被災者の心のケア」で43.8%でした。これは、社会資本や街並み、産業対策よりも多く、震災対策の力点をハード面や金銭面から人に寄り添う面にシフトしてほしいと考えていることがわかります。
このほか、力を入れてもらいたいとする政策の項目としては「被災地としてこの震災の教訓を発信し続けること」(43.5%)や「被災地が将来に希望を持てるような政策を企画すること」(41.8%)があげられており、それは「被災者に対する見舞金、生活支援金の継続・充実」(20.6%)の2倍程度になっています。
これらのことから考えて、今後の復興政策は物的な側面よりも、心のケア、将来への希望、教訓の語り継ぎという側面も重視していくことが大切であるといえます。
表3 県や市町村に今後力を入れてもらいたいこと
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答
4.心のケアの大切さ
今回のアンケート結果から、ハードの復興から心のケアや地域の将来に向けての希望の持てる政策といった、心理面の対策が今後重要となっていくであろうことがわかりました。
被災から5年たち、この間は住宅を再建したり生活を軌道に乗せたりすることで、ある意味手一杯であった方々も多かったと思います。しかし、5年が経過し、社会資本や街並み、インフラも普及した中で、今後の将来に対する不安のほうが大きく感じられるようになってきた方もおられると思います。
国外の大きな災害のその後に関する学術研究では、災害後しばらく時間がたってから、心の不調を訴える人が多かったという結果も報告されています。「震災からもう5年がたったから、心の整理をつけて新しいことに取り組まなくっちゃ」とあせる気持ちもあるかもしれませんが、1000年に1度ともいわれるようなこれだけ大きな災害があったのですから、その影響がすぐに消えてなくなるとは限りません。
行政の側でも心のケアの準備を進めるとともに、被災された皆さんも心の苦しさを感じたら、躊躇することなく専門家(心療内科や地元の保健センターなどの相談窓口)の力を借りることを検討してください。
また、皆さんの周りにそのような心配があるような方を見かけたら、無理に「早く忘れなさい」とか「頑張りなさい」とかいうことなく、「専門家のもとに相談に行きましょう。もし、一人で行くのが気が重かったら一緒に行きましょう。」と寄り添ってあげてください。特に、小さなお子さんなどは自分の気持ちをうまく話したり、表現したりできなくて、我慢をしているケースも心配されますので、周囲の人が早く気づいてあげるようにしてください。
【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院 経済学研究科・災害科学国際研究所(兼任) 教授
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、震災復興などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。
今回は東日本大震災から5年目を迎え、宮城県民の皆さんに聞いたアンケートの結果を中心にして、さまざまなことを振り返っています。
最後の第5回は、3月1日(火)~3月8日(火)まで仙台放送アプリを通じて募った「みんなのゼミ」のアンケート結果のなかから「宮城県は変わったか?」という視点で見てみることにしましょう。
1.震災によって、宮城県の社会は変わったか
はじめに、「震災を契機に宮城県の社会は変わったと思いますか?」とする質問に対する回答結果を見てみることとしましょう。
以下の表1をみると、最も多くの人が変わったと感じたものは「宮城県以外の地域の人々の支援や絆が深まった」というものです。
この項目に変わったと回答した人の割合は、全回答者の30%を超えているので、およそ3人に1人の人は、県外の人の支援に絆を感じています。
また、「町内の身近な人々の結びつきや助け合いの気持ちが高まった」とする回答も30%に近い水準になっています。
震災を通じて宮城県の社会は、県内外の人間同士のつながりが深まっていると感じている人が多いことがわかります。このほか、「知事のリーダーシップ」や「災害に関する情報公開」が進んだことを挙げている人も5人に1人以上います。
逆に「市町村長のリーダーシップ」「復興庁からの支援」「被災地の物事を決めるのに行政は住民の意見を良く聞いている」等に関しては、よい方向に変わったとする回答は非常に少なくなっています。
また、「震災を機に自分の地域の人口減少や過疎化が加速された」や「被災地の物事を決めるのに中央集権的で民意が反映されていない」とする震災の負の影響に関する感想を持っている人もいます。そして、なによりも「震災を経て、宮城県の社会はむしろ悪くなった」とする人が1割程度いることは残念なことです。
表1 震災後の宮城県社会に対する評価
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答。
2.あなたの防災意識は変わりましたか
これまでは、震災後5年間までの社会への評価を中心にアンケート結果を紹介しましたが、次にみなさん自身の意識についてみてみることにしましょう。表2では「震災を契機にあなたの防災意識は変わりましたか」という質問に対する結果をまとめてあります。
これを見ますと「緊急地震速報などを入手できるように機器や携帯の設定をしている」とする人が7割近くに上っており、意識の高さがうかがえます。次に割合が多いのが「自宅に数日分の水や食料、防寒や医薬品を揃えている」とするもので6割の人が答えています。これは前回の震災で、停電や断水、店舗の休業などを経験したことから防災意識の高まりと考えられます。
その次は、「家族と災害が発生したときの連絡方法や行動を話し合っている」とするもので、35%前後になっています。
しかし、前回までのコラムで、最も心配であったことに「家族の安否」があげられていた割には、家族間の連絡方法に関する話し合いをしている人の割合は少ないように思われます。
これらの結果「災害前も現在も特別な防災のための備えをしてはいない」とする人は1割以下まで下がっており、宮城県民の防災意識は一定程度高まっていると判断されます。
表2 震災後の防災意識
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答。
3.復旧・復興を超えてこれからは何を
これまでのアンケートでは、震災後から現在までの皆さんの意見や状況について尋ねたアンケートの結果を紹介しました。次には、今後のことについて皆さんの意見を見てみたいと思います。
表3には「震災5年を経て、宮城県や地元の市町村に今後、震災復興政策として最も力をいれて取り組んでもらいたいことは何ですか」とする質問に対する回答結果をまとめてあります。これを見ると、最も多くの割合の人が力を入れてもらいたいと思った項目は、「被災者の心のケア」で43.8%でした。これは、社会資本や街並み、産業対策よりも多く、震災対策の力点をハード面や金銭面から人に寄り添う面にシフトしてほしいと考えていることがわかります。
このほか、力を入れてもらいたいとする政策の項目としては「被災地としてこの震災の教訓を発信し続けること」(43.5%)や「被災地が将来に希望を持てるような政策を企画すること」(41.8%)があげられており、それは「被災者に対する見舞金、生活支援金の継続・充実」(20.6%)の2倍程度になっています。
これらのことから考えて、今後の復興政策は物的な側面よりも、心のケア、将来への希望、教訓の語り継ぎという側面も重視していくことが大切であるといえます。
表3 県や市町村に今後力を入れてもらいたいこと
資料:仙台放送「みんなのゼミ」アンケート(2016.3)
結果より集計。複数回答
4.心のケアの大切さ
今回のアンケート結果から、ハードの復興から心のケアや地域の将来に向けての希望の持てる政策といった、心理面の対策が今後重要となっていくであろうことがわかりました。
被災から5年たち、この間は住宅を再建したり生活を軌道に乗せたりすることで、ある意味手一杯であった方々も多かったと思います。しかし、5年が経過し、社会資本や街並み、インフラも普及した中で、今後の将来に対する不安のほうが大きく感じられるようになってきた方もおられると思います。
国外の大きな災害のその後に関する学術研究では、災害後しばらく時間がたってから、心の不調を訴える人が多かったという結果も報告されています。「震災からもう5年がたったから、心の整理をつけて新しいことに取り組まなくっちゃ」とあせる気持ちもあるかもしれませんが、1000年に1度ともいわれるようなこれだけ大きな災害があったのですから、その影響がすぐに消えてなくなるとは限りません。
行政の側でも心のケアの準備を進めるとともに、被災された皆さんも心の苦しさを感じたら、躊躇することなく専門家(心療内科や地元の保健センターなどの相談窓口)の力を借りることを検討してください。
また、皆さんの周りにそのような心配があるような方を見かけたら、無理に「早く忘れなさい」とか「頑張りなさい」とかいうことなく、「専門家のもとに相談に行きましょう。もし、一人で行くのが気が重かったら一緒に行きましょう。」と寄り添ってあげてください。特に、小さなお子さんなどは自分の気持ちをうまく話したり、表現したりできなくて、我慢をしているケースも心配されますので、周囲の人が早く気づいてあげるようにしてください。
【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院 経済学研究科・災害科学国際研究所(兼任) 教授
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、震災復興などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。