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【どうなる?未来の砂浜】第3回 美しく、安全で、いきいきした海岸を目指して ~日本の砂浜の現在~

2016/04/27 10:11

第3回  美しく、安全で、いきいきした海岸を目指して ~日本の砂浜の現在~ 

東北大学災害科学国際研究所の有働です。
前回は、高度成長期に砂浜侵食が急激に進んだという話をしました。
今回は、現在の日本の砂浜がどのような状況にあるのかという話をしてみたいと思います。

砂浜の急激な減少を受けて、海岸管理の主眼は、堤防などの構造物をつくって災害を防ぐ「防災対策」から養浜(砂をよそからもってきて砂浜をつくること)などの「侵食対策」へとうつっていきます。

1956年に「防災」を法目的として制定された海岸法は、1999年に改正され、新たに「環境」と「利用」が法目的として追加されました。防災だけを考えて海岸を管理していてはダメだということです。

海岸管理のあり方を検討した委員会は、「海岸は、波の侵入から国土を守る重要な空間であると同時に、海水浴、マリンスポーツや散策などの多様な利用に供されており、かつ、陸域から海域への遷移帯として多くの動植物が生息する独特の生態系が形成される場である。陸域からも海域からも様々な影響を受けやすい空間であることに留意し、従来の防災を主体とした取り組みから、海岸の多様な利用及び環境とも調和した取り組みに転換していくことが不可欠である。」
参考資料はこちらから)と提言しています。


図:日本の5つの海岸における1900年から2008年までの砂浜幅の変化
参考資料はこちらから

下の図は前回お見せした砂浜変化の図の続きですが、この改正と時期を同じくして、1990年代以降は砂浜の減少が抑えられています。この理由としては、海岸法改正により、海岸を管理する上で「環境」や「利用」への配慮が強く求められるようになったこと、そして、全国各地で侵食対策としての養浜が、以前より積極的に行われるようになったことが考えられます。

また、1960年以降に進められた防災対策が1990年頃までにある程度進んだことや、海岸のレクリエーション利用の要請や環境保全の意識が国民の間で高まり、それが海岸管理に反映されるようになったこともあるでしょう。


図:日本の5つの海岸における1900年から2008年までの砂浜幅の変化(吉田ら、2012)
参考資料はこちらから

ただし、日本全国の1950年と1990年の砂浜幅を比べて見てみると下の図のようになり、
砂浜の減少が抑えられたとはいえ、1950年に63mだった日本全国の平均砂浜幅(砂浜の一番陸側から海岸線までの距離)は1990年には43mになってしまいました。


図:日本全国の1950年(左)と1990年(右)の砂浜幅

さて、ここであなたに質問。
砂浜って侵食しちゃダメでしょうか?

別にどっちでもいいよ、っていう人もいるかもしれませんが...
アンケートなどをやってみると、やっぱり砂浜はあった方がいいっていう人が多いんです。このコラムの1回目でもお話ししたように、砂浜は私たちにとって重要な役割を果たしてくれます。でも、その対策のためにはやっぱりお金がかかります。

侵食対策の一つである養浜のコストは、今は人件費高騰等の影響もあり正確な数字は把握できていませんが、以前は1立方メートルあたり2千円~6千円程度でした(西ら、2005;参考資料はこちらから)。

通常、一回の工事(数か月)で行う養浜量は、砂浜の長さにもよりますが、何千とか何万立方メートルとかなので、何千万円とか何億円とかのオーダーです。それから、養浜を行う場合には、できるだけ砂を動きにくくするために何らかの構造物(離岸堤、ヘッドランドなど)を一緒に作ることも多く、こういうのにも結構お金がかかります。


図:新潟西海岸に設置された離岸堤とヘッドランド(1998年国土地理院撮影空中写真)。緑色の部分は海岸林。

次回は、『厳しさを増す海岸環境 ~日本の砂浜の将来~』をお伝えします。

配信日程:4月28日(木) 予定

【プロフィール】
有働恵子
東北大学災害科学国際研究所 准教授
筑波大学大学院工学研究科において博士課程修了。独立行政法人 港湾空港技術研究所 研究官を経て、2006年東北大学大学院災害制御研究センター 助手(2007年より助教)。2010年同センター 准教授を経て、2012年より現職。このコラムの掲載にあたり、自分で撮った砂浜の良い写真を探すのに苦労したので、写真の腕を磨こうと画策中。