患者に寄り添う「春風の家」女性患者のための『かつらdeサポート』
2016/06/27 10:34
月刊杜の伝言板ゆるる2016年6月号
患者に寄り添う「春風の家」
女性患者のための『かつらdeサポート』
がんは、日本人の死亡原因の第1位として、昭和56年に脳血管疾患を抜いて以降、トップを走っています。厚生労働省の統計(平成26年人口動態統計)より、がんの死亡者数は368,103人。全死亡者数の3割を占めます。
現在のがんの治療法は、主にがんの病巣を切除する「手術療法」、放射線を照射し、がん細胞を死滅させる「放射線療法」、抗がん剤によってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑える「化学(薬物)療法」です。
抗がん剤を使用する場合、髪の毛が抜けてしまう副作用を経験する方は多く、投与後およそ2〜3週間後にその兆候があります。薬の影響は一時的なもので、人によって差はありますが、治療後1ヵ月程度で生え始め、多くは半年〜1年程度で元に戻ります。
女性にとって脱毛は深刻な問題です。誰にも知られたくない、相談できないと壁を作ってしまい、情報を得にくい実態もあります。
現代はインターネットを通じて、通信販売などでも医療用のかつらを手にすることができますが、既製品でも1万〜10万円、セミオーダーで5万〜30万円、フルオーダーでは30万〜80万円にもおよび、人毛、人工毛、混合毛でも値段、使用感が変わってきます。
治療だけでも費用がかさむため、一時的なケアのために、多額の資金をつぎこむことは難しい、という悩みに応えてくれるのが、かつらの貸し出しサービスです。
▲貸し出し用のかつら
かつら de サポート
宮城県では、東北大学病院や石巻赤十字病院などにある「がんサロン」でも、かつら情報を得られますが、より患者の気持ちに寄り添うことを大切にしながら、かつらの貸し出しを行っているのが「春風の家」の『かつらdeサポート』です。
抗がん剤治療や病気で脱毛された方、頭部の手術を受けた女性の患者を対象にかつらの貸し出しを行っています。
かつらは、市民から提供されたものと、春風の家の後援会費で購入されたもので、丁寧に洗浄された清潔なものを、6ヵ月で1,500円(税込)と、とても良心的な価格で借りることができます。(頭とかつらを固定させる特殊なネットは別途購入。2,100円(税込)。
ホスピス設置を願う会
「春風の家」の前身となるのが「ホスピス設置を願う会」で、平成5年に、仙台市宮城野区東仙台に
ある、光ヶ丘スペルマン病院に、ホスピス(※)の設置を要請するため誕生した市民グループです。
当時、会を始めたきっかけは「光ヶ丘スペルマン病院にホスピスがあったらいいのに」というひらめきからという「春風の家」代表の小野敬子さん。紆余曲折がありながらも、誠実な気持ちが認められ、その5年後に、宮城県初のホスピス病棟が、光ヶ丘スペルマン病院に設置されました。
※ホスピス…終末期の患者が自らの意思と選択に基づき行われるケア。病気を治すための治療でなく、心身の緩和を積極的に行ない、患者が最後まで自分らしく生きるサポートをする治療。
リュックサッククラブ
平成12年に始めた患者同士の集いの会「リュックサッククラブ」も、「春風の家」の活動のひとつです。毎月1回、仙台市青葉区にあるカトリック元寺小路教会で開かれ、知識・経験豊かな看護師さんの協力も得ながら、15年続いています。
「人生は山登りのようなもの。皆リュックサックの中に病気や悩みなどを背負って生きている。それを皆で分かち合うことで、そのリュックの中が整理され、背負いやすくなり、歩きやすくなる」小野さんの、会に託した想いがその名前から伝わります。
「リュックサッククラブ」に通う患者達の話の中で、「抗がん剤治療のためかつらを購入しても、治療後は必要なくなる」、「かつらが欲しいと思っても、治療費の負担を思うと買えない」など、かつらに対して不便を訴える声が聞こえてきました。
そこから「かつらの貸し出し」という発想が生まれ、共感を呼びます。
春風サロン開設
「春風の家」の良き理解者の厚意により、仙台市青葉区二日町のマンションの1室を借り、平成17年、ついにかつらの貸し出しサービスをスタートしました。新聞で医療用のかつらを募集すると、部屋を埋めるほど沢山のかつらが届きました。感謝の気持ちとともに、皆さんの意識の高さに驚いたといいます。
かつらを借りに来る人、返却に来る人が、おしゃべりしながら交流できる場を作ろうという願いを叶え、平成27年5月には、「春風サロン」を開設。毎週火曜日にスタッフ6名が交代で運営しています。利用者は、近くに立地する東北大学病院から紹介を受けた方や、「リュックサッククラブ」のつながりで訪れる方が多く、相談を受けたり、情報を提供したり、患者の気持ちに配慮のある美容院の紹介も行っています。
▲春風サロンで憩う皆さん
「一人じゃない」を伝えたい
「病気を抱えると落ち込んだり、どうしてもマイナスに考えしまいがちです。サロンで楽しく話をしている時だけでも、病気のことを忘れてもらいたい」という小野さんは、病気でなくても気軽に立ち寄れる場所になればいい、とサロンへの想いを語ります。
毎週通っている利用者は「家にずっといると、色々考えてしまい、気がめいってしまうこともある。ここに来て皆と話すことで、気持ちが和み元気をもらえる。居心地の良い場所です」と笑顔で話します。
『かつらdeサポート』やサロンの利用者から「こういう場所があってよかった」と感謝の言葉をいただく時、かつらを利用している人が、もう必要でなくなったと笑顔で帰られる時、今までやってきて本当によかったと思うといいます。
「生きていくことは大変です。それでも一人ではないことを忘れないでほしい。同じ症状や想いを抱えている人がいること、健康だって悩んでいる人がいること、そして話を聞いてくれる人がいることを知ってもらえる場所になれば嬉しい」勇気を出して外に一歩踏み出すことで、このような出会いやつながりが生まれます。「今のスタイルを維持しながら、患者さんに寄り添うサロンを続けていきたい」と小野さんは優しく微笑みます。
患者の声に耳を傾け、その場の状況に合わせた「春風の家」の柔軟なスタイルが、多くの利用者や医療関係者から支持されています。
▲「春風の家」代表小野さん(中央)
春風の家
[事務局]TEL/FAX:022-229-3389
●かつらdeサポート(かつらの貸し出し)
毎週火曜日10:00~16:00
●春風サロン
毎週火曜日13:30~16:00
参加費:無料
対 象:患者さんおよびご家族
場 所:仙台市青葉区二日町13-26ネオハイツ勾当台806
TEL/FAX:022-265-3580(火曜日のみ)
●リュックサッククラブ(患者同士の集い)
毎月第4火曜日10:00~12:00
参加費:茶菓子代として200円
場 所:カトリック元寺小路教会(仙台市青葉区本町1-2-12)
月刊杜の伝言板ゆるる2016年6月号
http://www.yururu.com/?p=1624
患者に寄り添う「春風の家」
女性患者のための『かつらdeサポート』
がんは、日本人の死亡原因の第1位として、昭和56年に脳血管疾患を抜いて以降、トップを走っています。厚生労働省の統計(平成26年人口動態統計)より、がんの死亡者数は368,103人。全死亡者数の3割を占めます。
現在のがんの治療法は、主にがんの病巣を切除する「手術療法」、放射線を照射し、がん細胞を死滅させる「放射線療法」、抗がん剤によってがん細胞を死滅させたり、増殖を抑える「化学(薬物)療法」です。
抗がん剤を使用する場合、髪の毛が抜けてしまう副作用を経験する方は多く、投与後およそ2〜3週間後にその兆候があります。薬の影響は一時的なもので、人によって差はありますが、治療後1ヵ月程度で生え始め、多くは半年〜1年程度で元に戻ります。
女性にとって脱毛は深刻な問題です。誰にも知られたくない、相談できないと壁を作ってしまい、情報を得にくい実態もあります。
現代はインターネットを通じて、通信販売などでも医療用のかつらを手にすることができますが、既製品でも1万〜10万円、セミオーダーで5万〜30万円、フルオーダーでは30万〜80万円にもおよび、人毛、人工毛、混合毛でも値段、使用感が変わってきます。
治療だけでも費用がかさむため、一時的なケアのために、多額の資金をつぎこむことは難しい、という悩みに応えてくれるのが、かつらの貸し出しサービスです。
▲貸し出し用のかつら
かつら de サポート
宮城県では、東北大学病院や石巻赤十字病院などにある「がんサロン」でも、かつら情報を得られますが、より患者の気持ちに寄り添うことを大切にしながら、かつらの貸し出しを行っているのが「春風の家」の『かつらdeサポート』です。
抗がん剤治療や病気で脱毛された方、頭部の手術を受けた女性の患者を対象にかつらの貸し出しを行っています。
かつらは、市民から提供されたものと、春風の家の後援会費で購入されたもので、丁寧に洗浄された清潔なものを、6ヵ月で1,500円(税込)と、とても良心的な価格で借りることができます。(頭とかつらを固定させる特殊なネットは別途購入。2,100円(税込)。
ホスピス設置を願う会
「春風の家」の前身となるのが「ホスピス設置を願う会」で、平成5年に、仙台市宮城野区東仙台に
ある、光ヶ丘スペルマン病院に、ホスピス(※)の設置を要請するため誕生した市民グループです。
当時、会を始めたきっかけは「光ヶ丘スペルマン病院にホスピスがあったらいいのに」というひらめきからという「春風の家」代表の小野敬子さん。紆余曲折がありながらも、誠実な気持ちが認められ、その5年後に、宮城県初のホスピス病棟が、光ヶ丘スペルマン病院に設置されました。
※ホスピス…終末期の患者が自らの意思と選択に基づき行われるケア。病気を治すための治療でなく、心身の緩和を積極的に行ない、患者が最後まで自分らしく生きるサポートをする治療。
リュックサッククラブ
平成12年に始めた患者同士の集いの会「リュックサッククラブ」も、「春風の家」の活動のひとつです。毎月1回、仙台市青葉区にあるカトリック元寺小路教会で開かれ、知識・経験豊かな看護師さんの協力も得ながら、15年続いています。
「人生は山登りのようなもの。皆リュックサックの中に病気や悩みなどを背負って生きている。それを皆で分かち合うことで、そのリュックの中が整理され、背負いやすくなり、歩きやすくなる」小野さんの、会に託した想いがその名前から伝わります。
「リュックサッククラブ」に通う患者達の話の中で、「抗がん剤治療のためかつらを購入しても、治療後は必要なくなる」、「かつらが欲しいと思っても、治療費の負担を思うと買えない」など、かつらに対して不便を訴える声が聞こえてきました。
そこから「かつらの貸し出し」という発想が生まれ、共感を呼びます。
春風サロン開設
「春風の家」の良き理解者の厚意により、仙台市青葉区二日町のマンションの1室を借り、平成17年、ついにかつらの貸し出しサービスをスタートしました。新聞で医療用のかつらを募集すると、部屋を埋めるほど沢山のかつらが届きました。感謝の気持ちとともに、皆さんの意識の高さに驚いたといいます。
かつらを借りに来る人、返却に来る人が、おしゃべりしながら交流できる場を作ろうという願いを叶え、平成27年5月には、「春風サロン」を開設。毎週火曜日にスタッフ6名が交代で運営しています。利用者は、近くに立地する東北大学病院から紹介を受けた方や、「リュックサッククラブ」のつながりで訪れる方が多く、相談を受けたり、情報を提供したり、患者の気持ちに配慮のある美容院の紹介も行っています。
▲春風サロンで憩う皆さん
「一人じゃない」を伝えたい
「病気を抱えると落ち込んだり、どうしてもマイナスに考えしまいがちです。サロンで楽しく話をしている時だけでも、病気のことを忘れてもらいたい」という小野さんは、病気でなくても気軽に立ち寄れる場所になればいい、とサロンへの想いを語ります。
毎週通っている利用者は「家にずっといると、色々考えてしまい、気がめいってしまうこともある。ここに来て皆と話すことで、気持ちが和み元気をもらえる。居心地の良い場所です」と笑顔で話します。
『かつらdeサポート』やサロンの利用者から「こういう場所があってよかった」と感謝の言葉をいただく時、かつらを利用している人が、もう必要でなくなったと笑顔で帰られる時、今までやってきて本当によかったと思うといいます。
「生きていくことは大変です。それでも一人ではないことを忘れないでほしい。同じ症状や想いを抱えている人がいること、健康だって悩んでいる人がいること、そして話を聞いてくれる人がいることを知ってもらえる場所になれば嬉しい」勇気を出して外に一歩踏み出すことで、このような出会いやつながりが生まれます。「今のスタイルを維持しながら、患者さんに寄り添うサロンを続けていきたい」と小野さんは優しく微笑みます。
患者の声に耳を傾け、その場の状況に合わせた「春風の家」の柔軟なスタイルが、多くの利用者や医療関係者から支持されています。
▲「春風の家」代表小野さん(中央)
春風の家
[事務局]TEL/FAX:022-229-3389
●かつらdeサポート(かつらの貸し出し)
毎週火曜日10:00~16:00
●春風サロン
毎週火曜日13:30~16:00
参加費:無料
対 象:患者さんおよびご家族
場 所:仙台市青葉区二日町13-26ネオハイツ勾当台806
TEL/FAX:022-265-3580(火曜日のみ)
●リュックサッククラブ(患者同士の集い)
毎月第4火曜日10:00~12:00
参加費:茶菓子代として200円
場 所:カトリック元寺小路教会(仙台市青葉区本町1-2-12)
月刊杜の伝言板ゆるる2016年6月号
http://www.yururu.com/?p=1624