地域社会で守ろう、子どもの権利と健全育成~児童福祉法の改正に寄せて~ 土佐 昭一郎(NPO法人ミヤギユースセンター)
2016/07/20 10:00
月刊杜の伝言板ゆるる2016年7月号
地域社会で守ろう、子どもの権利と健全育成~児童福祉法の改正に寄せて~
土佐 昭一郎(NPO法人ミヤギユースセンター・理事長)
2016年5月27日、参議院本会議で児童福祉法の改正法案が可決されたことをご存じの方も多いと思います。児童福祉法は、1947年すべての児童の健全な育成とひとしい生活の保護の保障を国、地方公共団体と保護者の責任であるとした法律です。
関連する条約として、1989年第44回国連総会において採択された「児童の権利に関する条約」があり、我が国は1994年に批准しています。
社会的背景―ミヤギユースセンターの活動から
NPO法人ミヤギユースセンターは、2001年8月青少年の健全育成を目的に「高校生の不登校、高校中退者の学習支援と進学・就職などの進路支援」を提供するNPO法人として設立しました。
設立当初は高校不登校生と高校中退者の相談だけでしたが、2004年から中学生の相談が増えたのに合わせ、中学生の不登校生の学習支援を開始しました。2011年3月の東日本大震災後まもなくは相談件数も激減しましたが、最近では相談件数が東日本大震災前より増えています。
小・中学生の相談の多くは「学校に行っていない」というものだけではなく、「発達障がい傾向がある」、「ひとり親家庭で生活が苦しいので進学が心配」、「いじめにあっているようだ」など、相談内容は多様です。
さらには10年前にはほとんどなかった小学校の1、2年の相談が目立つようになっていることに、とても大きな危惧を感じています。小学校の不登校数が増加しており、特に低学年からの不登校は、ややもすると中学校も不登校になった場合、しっかりとした教育を受けることなく社会人になると考えた場合、本当にこのままで良いのだろうかと思ってしまいます。
経済格差、教育格差などが大きな社会問題となっていますが、ひとり親、虐待、育児放棄、出生後確認のできない子ども、子ども誘拐など、子どもに関する社会問題は急速に増加しています。社会環境の変化と家庭における経済力が子どもの養育に直結しているとはいえ、障がいのある子どもを含め、すべての子どもは、ひとしく生活でき、教育を受け、健全な成長をする権利をもっているということの理解が重要です。
子どもの健全な成長を国や行政に任せるのではなく、社会全体で保障していく意識を持つことが大人としての役割ではないでしょうか?
子どもの権利と保護者支援
今回の児童福祉法改正では、「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」と子どもの権利を明確にしました。
障がいのあるなしに関わらず、すべての子どもの権利を保障するために「国・地方公共団体は、保護者を支援するとともに、家庭と同様の環境における児童の養育を推進する」こととし、妊婦のときから自立するまでの保障をする必要性を規定しています。
日本の子育ては昔からの慣例で、子ども育成は「家庭の責任」と他からの意見や支援は難しい一面もあります。しかし、今回の改正では「保護者支援も子どもの権利を保障するためには必要である」ことが明記されました。
保護者は「支援要請の発信」、支援する側の「的確情報提供と行政への繋ぎ」が、これまで以上に必要だということになります。
虐待の防止と発生時の迅速・的確な対応・・・すべての大人が意識してほしい
虐待の連鎖という言葉をご存じでしょうか?子どものとき虐待を受けた方が保護者になったとき、我が子を虐待する場合のことをいいますが、ミヤギユースセンターの相談の中にも保護者から暴力を受けたという子どものケースでは、“大人や親が信じられない”とこたえる子どもがいます。
虐待は子どもの成長を阻害するばかりではありません。必要以上の「しつけ」と称する暴力、食事を与えない、育児放棄などの行為はあってはならないのです。
社会全体で子ども虐待防止と早期発見、早期対応をしなければなりません。これは大人全員の責任だと思っています。また、被虐待児童の自立支援も改正に盛り込まれました。それは虐待を受けた児童(被虐待児童)の自立支援は、里親制度、自立援助ホームの活用を積極的に行い、親子関係再構築支援、22才まで就学中の者の支援などを行うようになります。
▲図2 児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移
▲図3 児童虐待の相談種別対応件数の年次推移
図1、2、3:厚生労働省 平成26年度 福祉行政報告例の概況・結果の概要 9 児童福祉関係 (2)児童相談所における児童虐待相談の対応件数より
地域で子どもを見守る
この度の児童福祉法の改正により関連法も改定になりました。すべての人に児童福祉法の精神を理解していただき、次代の日本を背負う子どもたちの健全育成を意識していただきたいと思っています。
児童相談所の整備、児童相談所と学校などの関連機関との連携強化、母子健康包括支援センターの設置など行政の仕組みも強化されています。
子どもは地域社会で教育を受け育っています。地域に住む大人が関心を持ち続けることが大切です。非営利で市民活動を実践している者として、市民目線で子ども一人ひとりを見守っていきたいと思っています。
NPO法人ミヤギユースセンター
〒983-0852 仙台市宮城野区榴岡2丁目2-8-203
●TEL/FAX:022-256-7977
●E-mail:miyagi_yc@ybb.ne.jp
●URL:http://www.miyagiyouht.npo-jp.net/
月刊杜の伝言板ゆるる2016年7月号
http://www.yururu.com/?p=1772
地域社会で守ろう、子どもの権利と健全育成~児童福祉法の改正に寄せて~
土佐 昭一郎(NPO法人ミヤギユースセンター・理事長)
2016年5月27日、参議院本会議で児童福祉法の改正法案が可決されたことをご存じの方も多いと思います。児童福祉法は、1947年すべての児童の健全な育成とひとしい生活の保護の保障を国、地方公共団体と保護者の責任であるとした法律です。
関連する条約として、1989年第44回国連総会において採択された「児童の権利に関する条約」があり、我が国は1994年に批准しています。
社会的背景―ミヤギユースセンターの活動から
NPO法人ミヤギユースセンターは、2001年8月青少年の健全育成を目的に「高校生の不登校、高校中退者の学習支援と進学・就職などの進路支援」を提供するNPO法人として設立しました。
設立当初は高校不登校生と高校中退者の相談だけでしたが、2004年から中学生の相談が増えたのに合わせ、中学生の不登校生の学習支援を開始しました。2011年3月の東日本大震災後まもなくは相談件数も激減しましたが、最近では相談件数が東日本大震災前より増えています。
小・中学生の相談の多くは「学校に行っていない」というものだけではなく、「発達障がい傾向がある」、「ひとり親家庭で生活が苦しいので進学が心配」、「いじめにあっているようだ」など、相談内容は多様です。
さらには10年前にはほとんどなかった小学校の1、2年の相談が目立つようになっていることに、とても大きな危惧を感じています。小学校の不登校数が増加しており、特に低学年からの不登校は、ややもすると中学校も不登校になった場合、しっかりとした教育を受けることなく社会人になると考えた場合、本当にこのままで良いのだろうかと思ってしまいます。
経済格差、教育格差などが大きな社会問題となっていますが、ひとり親、虐待、育児放棄、出生後確認のできない子ども、子ども誘拐など、子どもに関する社会問題は急速に増加しています。社会環境の変化と家庭における経済力が子どもの養育に直結しているとはいえ、障がいのある子どもを含め、すべての子どもは、ひとしく生活でき、教育を受け、健全な成長をする権利をもっているということの理解が重要です。
子どもの健全な成長を国や行政に任せるのではなく、社会全体で保障していく意識を持つことが大人としての役割ではないでしょうか?
子どもの権利と保護者支援
今回の児童福祉法改正では、「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」と子どもの権利を明確にしました。
障がいのあるなしに関わらず、すべての子どもの権利を保障するために「国・地方公共団体は、保護者を支援するとともに、家庭と同様の環境における児童の養育を推進する」こととし、妊婦のときから自立するまでの保障をする必要性を規定しています。
日本の子育ては昔からの慣例で、子ども育成は「家庭の責任」と他からの意見や支援は難しい一面もあります。しかし、今回の改正では「保護者支援も子どもの権利を保障するためには必要である」ことが明記されました。
保護者は「支援要請の発信」、支援する側の「的確情報提供と行政への繋ぎ」が、これまで以上に必要だということになります。
虐待の防止と発生時の迅速・的確な対応・・・すべての大人が意識してほしい
虐待の連鎖という言葉をご存じでしょうか?子どものとき虐待を受けた方が保護者になったとき、我が子を虐待する場合のことをいいますが、ミヤギユースセンターの相談の中にも保護者から暴力を受けたという子どものケースでは、“大人や親が信じられない”とこたえる子どもがいます。
虐待は子どもの成長を阻害するばかりではありません。必要以上の「しつけ」と称する暴力、食事を与えない、育児放棄などの行為はあってはならないのです。
社会全体で子ども虐待防止と早期発見、早期対応をしなければなりません。これは大人全員の責任だと思っています。また、被虐待児童の自立支援も改正に盛り込まれました。それは虐待を受けた児童(被虐待児童)の自立支援は、里親制度、自立援助ホームの活用を積極的に行い、親子関係再構築支援、22才まで就学中の者の支援などを行うようになります。
▲図2 児童虐待相談における主な虐待者別構成割合の年次推移
▲図3 児童虐待の相談種別対応件数の年次推移
図1、2、3:厚生労働省 平成26年度 福祉行政報告例の概況・結果の概要 9 児童福祉関係 (2)児童相談所における児童虐待相談の対応件数より
地域で子どもを見守る
この度の児童福祉法の改正により関連法も改定になりました。すべての人に児童福祉法の精神を理解していただき、次代の日本を背負う子どもたちの健全育成を意識していただきたいと思っています。
児童相談所の整備、児童相談所と学校などの関連機関との連携強化、母子健康包括支援センターの設置など行政の仕組みも強化されています。
子どもは地域社会で教育を受け育っています。地域に住む大人が関心を持ち続けることが大切です。非営利で市民活動を実践している者として、市民目線で子ども一人ひとりを見守っていきたいと思っています。
NPO法人ミヤギユースセンター
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月刊杜の伝言板ゆるる2016年7月号
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