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~5年間の歩み~『被災者支援から地域支援へ』

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2016/09/20 09:48

~5年間の歩み~『被災者支援から地域支援へ』
大森 美和(NPO法人生活支援プロジェクトK)


NPO法人生活支援プロジェクトKは、2011年3月11日の東日本大震災後、宮城県気仙沼市で地元の保健福祉関係者が、認定NPO法人シェア=国際保健協力市民の会(以下、シェア)の支援のもと、2011年8月に立ち上げたNPOです。

2012年2月に法人化し、2014年3月末まではシェアとの共同事業として活動を行っていましたが、同年4月以降は独立して活動しています。気仙沼市の中でも沿岸部の被害が大きかった階上地区にトレーラーハウスの事務所を置き、「はしかみ交流広場」として地域に開放しています。

これまでの被災者支援

私たちは、団体設立後、震災による被災者支援を目的として階上地区にある6ヵ所の仮設住宅(総世帯数約280世帯)を中心に、『なんでも相談』、『健康相談』、『コミュニティ支援』を柱としてこれまで活動を行ってきました。

まず、『なんでも相談』は、生活の中での困りごとやどこに相談したらいいかわからない問題などを受け付け、相談に乗ったり、必要があれば関係機関につなげたりしてきました。特に介護福祉系の資格を持つスタッフや理事がいるため、介護に関する相談を受けることも多くありました。

『健康相談』は、看護師・保健師の資格を持つスタッフが対応していますが、待っているだけではなかなか相談にはいらっしゃらないので、他団体が行っている仮設住宅でのお茶会に同行して血圧測定や健康相談を行ったり、健康講話やスタッフによる保健劇を通して健康に関する啓発活動を行ってきました。

さらに、2013年からは月に一度程度のお茶会の機会だけでなく、定期的に身体を動かす機会が必要と考え、2ヵ所の仮設住宅で週1回、血圧測定やストレッチ、音楽に合わせた体操を行う「いきいき体操」を始めました。これは日中引きこもりがちな高齢者の生活不活発病予防を目的としていましたが、参加者の方にとっては単に身体を動かすだけでなく、体操後のお茶飲みの時間が大切なコミュニケーションの場となっています。

▲いきいき体操

『コミュニティ支援』の「編み物講座」では、はしかみ交流広場のフリースペースを使い、編み物を通した交流を目的に、被災の有無に関わらず、地域の方々を対象に週に一度開催しています。編み物は自宅でもできますが、週に一度みんなで集まって、おしゃべりをしながら編み物をしたり、出来上がった作品を見せてお互いに感想を言い合ったりすることが参加者の楽しみ、生きがいとなっており、団体設立当初から5年間続いています。

最近では、編み物講座の参加者が近くの災害公営住宅に住む高齢者の方々に編み図と毛糸を持っていき、講座で習った編み物を教えるという流れも出来てきました。足が悪く出かけるのが難しい高齢者にとっても楽しみが増え、私たちの活動が参加者によって地域に広がっていった事例の一つです。

また、被災後畑を失くし、仮設住宅で引きこもりがちな住民の方々に、野菜つくりを通して楽しみや近所の方との交流をしてもらおうと「野菜つくりプロジェクト」という活動も4年間行いました。

春に野菜の苗や土、プランターや資材を希望者の方に配布し、野菜を育てていただきました。水やりで外に出たときに近所の方と会話をしたり、上手に育てている方にコツを聞いたり、できた野菜をおすそ分けしたりと、野菜を通して交流の機会が増えました。

また、各仮設住宅を訪問する支援者にとっては、野菜の話をきっかけに住民の方々からお話を聞いたり、「野菜の水やりをしましょう。」と外に出ることを促したりと、他の支援者にとっても住民の方々と関わる際に野菜がツールとなることもありました。

私たちの活動はスタッフが2名のみのため、できることは小さいですが、他の支援者と協力し合うことで活動を広げ、住民の方々にも協力してもらいながら続けることが出来ました。こうすることで、「支援する人⇔支援される人」ではなく、一緒に前を向いて共に歩んで来ることができたと思います。

つながらない「恒久住宅=安心」

階上地区は、気仙沼市内でも防災集団移転の整備や災害公営住宅の建設が早く進み、昨年3月から仮設からの転居が始まりました。

今年に入ってさらに防災集団移転の自宅建設や追加の災害公営住宅が建設され、仮設住宅からの退去が進んでおり、現在仮設に残っている住民は半分以下となってきました。

仮設に残っている方は、転居先は決まっているものの土地の造成や建築が終わっていない方、また何らかの理由で転居が難しい方など様々です。このような方々は、同じ階上地区を支援している団体とミーティングや日頃の活動を通して情報交換を重ね、見守っていきたいと考えています。

また、自宅再建や災害公営住宅に転居したあとも、「新しい家に入れてこれで安心」ではないようです。長い仮設暮らしで出来上がったコミュニティは、転居と共にまたもや崩れてしまいました。

災害公営住宅は特に高齢者や1人暮らしの方が多いため、転居後なかなか新しいコミュニティが作りづらく、仮設のように気軽に集まれる集会所も近くにないため、孤立しやすい状況になっています。

また、高齢者の方が自宅再建後に子ども達家族と二世帯同居を始めた場合も、お互いの生活リズムを合わせるために、家族の中でも気を使わなければならず、ストレスを抱えている高齢者の方もいらっしゃいます。

はしかみの保健室

そこで、私たちは新しい住まいに転居した後も気軽に集まれる縁側のような場所が必要だと考え、昨年4月から「はしかみの保健室」という活動を開始。階上地区の大きな災害公営住宅と防災集団移転の場所からはしかみ交流広場までは、歩いて10分ほどのところです。

▲はしかみの保健室

毎日開放していても、きっかけがなければなかなか立ち寄ることもできないため、血圧測定やカラダスキャンによる体重や体脂肪の測定、血管年齢や握力などを測定し、結果はご本人と私たちでそれぞれ記録しています。測定後はコーヒーを飲みながら健康に関することやそれ以外のことでもなんでも相談することが出来ます。昔ご近所で違う仮設に住んでいた方が、保健室で偶然出会い、話が弾むこともあります。

住民の方にとって「自分の居場所」が増えれば、それだけ社会とのつながりが増え、生きがいにつながると考えています。そしてこれは被災後転居を繰り返し、コミュニティを作り直してきた方々だけでなく、地域に住んでいる住民の方々にも当てはまります。そのため、今までは被災された方を中心に行ってきた支援をこれからは地域に向けて行っていきたいと考えています。

地域の高齢者が介護を必要とせず元気でいられる健康寿命が延びれば、地域は元気になり、お互いに見守る住民力がつくと考えています。これからも、地域の人々の声に耳を傾け、地域の人々が出会い、つながりを生み出すような活動を続けていきたいと思います。

NPO法人生活支援プロジェクトK
〒988-0234 気仙沼市長磯原ノ沢130-7
●TEL:090-4076-5071(代表)
●E-mail:ssprojectk@yahoo.co.jp
●URL:http://seikatsushien-k.jimdo.com/

月刊杜の伝言板ゆるる2016年9月号

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