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「東日本大震災後6年目を迎えて」第5回 震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか

2017/03/10 10:19

東日本大震災後6年目を迎えて
東北大学 経済学研究科・災害科学国際研究所 教授 吉田 浩

第5回 震災6年目の今、被災地は何を望んでいるのか
今回のコラムではこれまで4回にわたって東日本大大震災が及ぼした影響を見てきました。最後の第5回では「被災地が今、何を望んでいるのか」と題し、被災地の今とこれからに注目して、アンケート結果を見て行きたいと思います。

1.今後期待する取り組み(全体)
以下では、「震災6年を経て、あなたから見て震災復興政策として今後力をいれて取り組んでもらいたいことは何ですか。あてはまるものをいくつでもお選びください。」として、今後期待される取り組み事項を聞きました。ここでは、複数用意した選択肢の中から、期待される取り組みに該当するものを複数回答で選んでもらう形をとりましたので、割合の合計値は100%を超過します。

人々の中での優先事項を知るため、表に示された各項目の割合は全体数835名のうち、その項目を選択した人の割合を示しています。初めに、地域を特定せず、主要被災地3県(岩手県、宮城県、福島県)と東京都の全体での集計結果を見ることとします。

表1は、選択肢にそれを選んだ回答者の割合の多いもの順に示したものです。これを見ると、トップに「被災者の心のケア」が39.6%と挙げられていることがわかります。この割合は、第2位の「社会資本の復旧」と同じかそれ以上の割合で期待されていることです。ベストファイブまでを見ますと、第3位が「産業、雇用、経済対策」、第4位が「教訓を発信し続けること」と続き、第5位に「住宅整備」となっています。

ここで、ベストファイブまでの5つの項目中3つまでは、「心」「経済」「教訓」といういわゆるハード面以外での復興対策が挙げられていることが注目されます。この結果からも震災復興が人間面、ソフト面、生活面へシフトしてきていることがわかります。

2.今後期待する取り組み(地域別)
次に、1.と同じ質問の結果を、地域別に再集計したものをみることで、今後の震災対策に力を入れてもらいたい項目違いがあるのかを確認することとします。

表2では、今後に力を入れて取り組んでもらいたい項目を、全体集計(被災地3県+東京都)、宮城県だけの集計、東京都だけの集計の3つの分類で示したものです。スペースの関係で、各集計の項目のうち上位5位まで(ベストファイブ)を示しています。

この表2の結果を見ると、被災地である宮城県はほかの集計結果と違いがあることがわかります。まず宮城県では今後取り組んでもらうべき政策の項目のトップに「この震災の教訓を発信し続けること」が挙げられています。このことは、被災地ならではの回答であるといえます。もう一つ特徴的なことは、全体集計と東京都の集計ではいずれも「被災者の住宅の整備」が入っているのに対して、宮城県の集計結果では、この住宅整備がベストファイブまでに含まれていないことです。
 
3.震災5年目の結果との違い
最後に、今後力を入れて取り組んでもらいたい政策のアンケートについて、去年の結果と比較してみることにします。去年2016年の3月に、ほぼ同様の選択肢で、仙台放送「みんなゼミ」として宮城県および仙台市の人を中心にとったアンケートの結果を表3の左側、2016年アンケートとして示してあります。2017年アンケートは今回見てきたアンケート結果で、宮城県だけの結果を取り出して集計したものです。


2016年と2017年の結果はともに宮城県民を対象とした結果ですが、調査方法やサンプル数、調査対象が同一ではないため直接にその数値を比較することには注意が必要です。このため、ここでは、それぞれの年の調査で、その項目が選択された割合が高い順に並べてその順位を比較することとします。

表3をみると、「震災教訓の発信」が2016年2017年ともに上位にランクされており、2017年では最多に選択された項目としてトップとなっています。南三陸町の防災庁舎が震災遺構として宮城県によって20年間管理されることとなったことも考え合わせると、宮城県民の「この震災の教訓を発信し後々に伝え続けること」への思いは強いといえるのではないでしょうか。

逆に、国への要望や支援金・見舞金といった項目は相対的に下位にランクされており、震災復興の力点はモノ、カネといったものから、暮らし、将来へのまなざしという次のステップに移っていることがうかがえます。

※2017年の調査結果の詳細は東北大学経済学研究科、ディスカッションペーパーシリーズ(No.357-358; 詳しくはこちらから)として、公表されています。

【プロフィール】
吉田 浩
東北大学大学院経済学研究科教授
高齢経済社会研究センター長
少子・高齢化社会の問題を経済学的観点から統計などを用いて解明。世代間不均衡、男女共同参画社会、公共政策の決定過程、玩具福祉学などを研究。
1969年、東京生まれ、1女2男の父。

【アーカイブ】
第1回 震災6年目の被災地の暮らしと健康の状況

第2回 震災はどのように暮らしと健康に影響したか

第3回 震災の子供たちへの影響

第4回 震災の教訓は根付いているか