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ゆるる20年から見る市民セクターの今

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2017/05/29 10:25

ゆるる20年から見る市民セクターの今
市民社会創造ファンド運営委員長山岡 義典


20年間にわたり、メゲることなく、ユレることもなく、現在では9,000部に及ぶ月刊誌を発行し続けてきた熱意と忍耐力に、まず敬意を表します。心からお祝い申し上げます。

本当は、メゲそうになったことも、ユレそうになったこともあったのでしょう。資金的にも大変なことだったと思います。しかし活動現場の声を中心に、市民活動の実態や意味や課題を誰にでも分かる言葉で伝えてきた内容は、多くの市民や企業や行政にも届き、市民の参加や組織間の協働・連携の動き、そしてネットワーク化への契機としても大きな役割を果たしたのではないでしょうか。

その20年(240冊!!)という刊行の持続性を含め、まさにNPOならではの情報発信力を高く評価したいと思います。さらにその蓄積された情報記録は、宮城県の市民活動史を紐解く貴重な史料としても、今後、有効に活用されるものと思います。

熱い時代背景の中での創刊から情報(誌)を基盤とした中間支援組織への展開へ

今の「ゆるる」のもとになるみやぎの市民・ボランティア活動情報」の準備号が発刊されたのは1997年1月、その母体となる組織の立ち上げは前年12月とWebサイトの年表に記されています。丁度、私たちが1996年11月に日本NPOセンターを立ち上げた直後のことで、NPO法の成立に向けて市民団体や国会議員が盛んに議論を重ねていた時期です。

私自身にとっても、熱い時期でした。創刊者の大久保さんも、きっとそうでしょう。東京と仙台で、顔の知らない同じ情熱をもった仲間が、それぞれの第一歩を踏み出していたということに感慨深いものを感じます。

半年後の1997年6月には誌名を「杜の伝言板ゆるる」と改名、A4版16頁の今の形が整ったようで、2001年4月からは宮城県の設置したWebサイトの「みやぎNPO情報ネット」の管理運営も受託しています。

活動領域を広めていって2003年3月の法人化。2005年4月からは宮城県のNPO支援拠点「みやぎNPOプラザ」の指定管理者となり、「プラザ」を足場に次第に中間支援組織としての活動を広げて現在に至っています。情報(誌)NPOから中間支援NPOへの展開ですが、「情報(誌)」に基盤をもつ中間支援組織だからこそ、全国的にも独自の立ち位置を占め、大切な役割を果たしているように思っています。

東日本大震災の救援・復興と「ゆるる」の果たした役割

私が「ゆるる」と深くかかわるようになったのは、東日本大震災後の2011年4月からです。そこで改めて、「情報(誌)基盤を活用した中間支援組織の底力」を知ったのです。

震災直後、私が代表を務めていた日本NPOセンターでは「現地NPO応援基金」を立ち上げ、同じく私が代表の市民社会創造ファンドと協力して現地への緊急支援に取り組んでいました。その中で「ゆるる」の取り組みに出会い、早速、資金提供を申し出ました。そのテーマは「被災NPOのための復興支援事業」、2回にわたり助成させていただきました。

これは、津波で被災した主に福祉系のNPOの実態を調査し、その復興への支援をWebサイトで呼びかけようとするものです。そのためには、まず被災の実態について現場情報を把握し、その情報を収集分析してどこで何が必要かを判断することが必要になります。

私はそのための情報分析の集会に同席したのですが、そこに、長年にわたる取材を通して現場を熟知し、現場からも信頼されている「ゆるる」ならではの発想の独自性と機動性、現実的な意味を実感したことを覚えています。

多くの中間支援組織は、救援活動を行うNPOの活動を支援するものですが、ここでは、被災して人や施設を失い機能不全に陥ったNPO自体を再建するための支援をするのです。そのためにWebサイトを立ち上げて全国に必要な支援を訴えたわけですが、応援基金でもその情報を手掛かりに幾つかの助成をさせていただいたことに感謝しています。

今、市民セクターに求められていること

このような「ゆるる」の20年を見ていくと、そこには今後の市民セクターの発展に必要な沢山のヒントがあるように思います。

まずNPOにとって必要な情報基盤とは何かということです。フローの情報が行き交うソーシャルメディアに目が行きがちですが、紙媒体を通じての、地域との継続的で着実な信頼関係による情報発信をもっと評価すべきでしょう。信頼できるストック情報を基盤にしてこそ、電子媒体の活用も意味をもつということです。これはローマならずとも1日でできるわけがありません。

もう一つは、現場をよく知る地域の目利きの役割の重要性です。評価流行りが悪いわけではありませんが、時間軸を見失った一断面の切り取り評価では、現場は理解することも評価することもできません。じっと見続けることで見えてくることを見失ってはいないか、それが心配です。そのような静かな目利きの存在こそが、その地域の市民セクターを鍛え強化するはずです。それが欠けたまま、流行りに浮かれてはいないでしょうか。

さらに付け加えれば、公的資金との関係です。自主事業の基本が確立されて初めて行政との協働も意味をもってくる。その逆ではないということ。むしろ公的資金を自主事業の強化にどう生かしていくか、その「したたかな知恵」が求められます。それがないままに公
的資金におぼれているNPOが、日本の各地にどれほど増えつつあることか。休眠預金のプレゼンもいいですが、これも公的資金に準ずる資金であることを忘れてはいけません。果たして市民セクターの基盤を強化することになるのかどうか。「したたかな知恵」のないままでは、とんでもないことになりはしないかと心配です。

市民セクターは、そんなに器用にならなくていいのです。「ゆるる」が不器用というわけではありませんけど。

▲山岡義典さん執筆「時代が動くとき」

プロフィール
日本の市民活動家、都市計画家、地域
研究者。NPO法人制度の実現に尽力。
法政大学名誉教授。専門は非営利組織
論、都市・地域計画論。助成財団センター
理事長、市民社会創造ファンド代表理事、
日本NPOセンター顧問


月刊杜の伝言板ゆるる2017年5月号

http://www.yururu.com/?p=2381