戻る

仙台放送NEWS

検索


突然変異体:遺伝子の働きを解明する秘密道具

東北大学

2018/08/14 18:57

東北大学 農学研究科 准教授 伊藤幸博

1.遺伝子って何?
「遺伝子」という言葉を聞くことがよくあると思います。遺伝子は生き物の形や性質を決め、それを親から子へ伝えるものです。生き物の活動は遺伝子の働きに依存しています。

植物が芽を出すのも、緑色になるのも、種を付けるのも、遺伝子の働きに依存しています。親子が似ているのも遺伝子の働きです。1つ1つの遺伝子がそれぞれの働きを持っていて、それらが協力して働くことにより、生き物が生き物として生きています。

2.遺伝子の働きの調べ方
では、1つ1つの遺伝子の働きは、どうすれば知ることができるでしょうか。一番いい方法は、ドラえもんに「遺伝子調べ隊」という秘密道具を出してもらうことです。ですが、残念ながらドラえもんもそんな秘密道具は持っていません。のび太のように泣きついても無理です。ではどうしたらいいでしょうか。

私たちはよく「突然変異体」を使っています。突然変異体というのは、遺伝子が傷ついて働きがおかしくなった個体のことです。例えば、イネにはONION1という遺伝子の突然変異体があります。これはONION1遺伝子が働かなくなった個体で、イネの芽がタマネギのような形になるので、このような名前がつけられました(図1)。

つまり、ONION1遺伝子が働かなくなった結果、芽の形が本来のイネの芽の形にならなくなったわけです。このことから何が考えられるでしょうか。ONION1遺伝子が働かなくなると芽の形がおかしくなるということは、芽の形がちゃんとできるにはONION1遺伝子の働きが必要だということです。つまり、ONION1遺伝子の働きは、イネの芽の形を作ることだということがわかります。

図1、普通のイネ(左)とONION1遺伝子の突然変異体(右)
普通のイネの右下は同じ倍率の突然変異体。突然変異体はこれ以上育たず、死んでしまう。白いバー:1 cm(野生型)、1 mm突然変異体。

けれど、これだけではONION1遺伝子は芽の形を作る遺伝子だということしかわかりません。芽にはいろいろな細胞があり、それらが秩序正しく作られて本来の形になります。そこで、ONION1遺伝子の突然変異体の芽のどこがどうおかしいかをより詳しく調べました。その結果、ONION1遺伝子の突然変異体では「表皮」が正常にできていないことがわかりました(図2)。

表皮は、植物の体を覆う一番外側の細胞のことです。ONION1遺伝子が働かないと表皮ができないということは、表皮をつくるのにONION1遺伝子の働きが必要だということです。つまり、ONION1遺伝子の働きは表皮を作ることだということがわかります。


図2、普通のイネ(左)とONION1遺伝子の突然変異体(右)の表皮
普通のイネでは一番上に表皮細胞(こぶのような突起の付いた細胞)が見られるが、突然変異体には表皮細胞が見られない。黒いバー:0.01 mm。

このように、突然変異体のどこがどうおかしいのか、より詳しく調べることにより、その遺伝子の働きをより詳しく知ることができます。ONION1遺伝子の場合、単に芽を作る遺伝子から、芽の中の表皮を作る遺伝子だということがわかりました。

3.突然変異体って、実は・・・
みなさん、もしかしたらもう気付いていませんか。突然変異体が「遺伝子調べ隊」だということに。突然変異体と聞くと、何か変なものと思うかもしれませんが、遺伝子の働きを知るうえでとても役に立つ秘密道具なのです。ドラえもんの秘密道具はアニメの世界だけでなく、現実の遺伝子研究の場でもとても役に立っています。

(写真はいずれもIto et al (2011) Plant J 66, 680-688より引用)

【プロフィール】
伊藤 幸博
東北大学大学院農学研究科准教授
植物の遺伝子の機能の解明と遺伝子を用いた植物の改良を研究。東北大学飛翔型科学者の卵養成講座実行委員として高校生の科学研究も支援。
1967年、名古屋生まれ、2男1女の父。

環境適応生物工学研究室のホームページはこちらから

科学者の卵養成講座のホームページはこちらから