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「津波被災地の幽霊を小学生から研究者まで考える」第1回 妖怪ウォッチとタクシーの幽霊

東北学院大学

2016/06/13 10:21

第1回 妖怪ウォッチとタクシーの幽霊

今日から5日にわたって連載します、東北学院大学の金菱(かねびし)です。よろしくお願いします。連載は普通シリーズものなのですが、ここではタクシーの幽霊現象にまつわる同じ内容(金菱編『呼び覚まされる霊性の震災学』新曜社)を、(1)小学生用、(2)大学生用、(3)一般の人向け用、(4)被災者向け用、(5)研究者向け用にそれぞれ噛み砕きながらお話しを進めようと考えています。今日は(1)小学生向けのお話です。これが一番難しいですね。なぜなら、難しい言葉でごまかすことができないからです^^;


(新聞の取材を受ける金菱先生)

小学生のみんなは幽霊(ゆうれい)にあったことはありますか? うん、ない。ではテレビのマンガなどで幽霊をみたことはあるかな? えっ妖怪(ようかい)ならある。「妖怪ウォッチ」がみなさんの間では有名だよね。
これも幽霊の仲間で、ウィスパーと出会って妖怪ウォッチを手に入れて、町の人たちと問題を解決していくストーリー。

ほんとは、幽霊も妖怪も普段生活をしていると目に見えないものなんだよね。つまり妖怪ウォッチを使って初めて妖怪をみれたりコンタクトをとれるんだ。

そして、今からするお話は、とっても怖いので夜これを読む時はおしっこを先にいっておこう。5年前に起った大津波の現場では、たびたび幽霊に会った人がいるんだ。これはタクシーの運転手の人たちが出会ってしまった話なんだ。



ある日の真夜中、お客さんを待っていると、夏なのになぜか冬服を着た30代くらいのおばさんがタクシーに乗り込んできた。行き先は?って聞くと、「南浜まで」と答えがかえってきた。運転手さんは不思議に思って、「あそこはもうほとんど(津波のせいで)空き地ですけど大丈夫ですか? どうして南浜まで? コートは暑くないですか?」と聞くと、突然「私は死んだのですか?」震えた声でこたえてきたため、驚いた運転手さんが、「え?」とミラーから後部座席に目をやると、そこには誰も座っていなかった。

どう? 寒気がする? で、普通こういう怖い話をすると、幽霊に対してみんなだったらどういう風に思う? そうだよね、もうかんべんしてって手を横に振りながら二度と乗ってくるなって願うだろう。ところがね、運転手さんたちは、もう一回幽霊さんが乗ってきても乗せるよっていっているんだ。優しいよね。



でもなぜだと思う? みんなはあまり乗らないと思うけれども、親と一緒に乗って見ていると、タクシーってどこどこ行ってって言ったらバスのようにバス停ごとにとまってぐるっとまわるのではなく、一直線に行き先まで行ってくれるし、その地域ではたくさんの人が津波によって亡くなって、とっても愛する家族が悲しんでいることを地元の運転手さんたちは知っているだね。

それで自分たちの使命感は、そういうこの世にちょっと伝言がある人が残された家族のもとにたとえ幽霊であったとしてもタクシーで運ぶことが大切なんだって思っているだよ。みんなのお父さんやお母さんも仕事をしていてこういうしなければと使命感をもってのぞんでいることってあるだろう。だから、普通はえっと思うようなことでもやり遂げようとするんだ。妖怪ウォッチの役割がタクシーと考えれば、運転手さんは幽霊とコンタクトをとりやすいんだよ。

次回は「第2回 死に一番敏感な大学生とタクシーの幽霊」
配信日程:6月14日(火) 予定

【プロフィール①】
東北学院大学教養学部地域構想学科・教授
金菱 清(かねびし・きよし)
http://kanabun.soms9005.com/research/book

本人は記憶にないが、1975年この世に生を享ける(前世が何者かは不明)。5歳の時、お風呂に入っている際に「社会学」を悟る。すべての大学受験に失敗。1995年阪神淡路大震災直後の受験でまぐれ合格し、関西学院大学社会学部に入学。当時非常勤講師として来校していた故大村英昭先生の社会学を受講し、第一志望だった心理学より社会学の方が面白く、自分の身の丈にあっていることを知る。(つづく)