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お肉とペットはどう違う? 動物と倫理学「第3回 動物について、倫理学の観点から問題になること」

東北大学

2016/10/27 11:51

第3回 動物について、倫理学の観点から問題になること

動物に対する人間の接し方に、何かモヤモヤしたものを感じたことがある人は多いでしょう。連載の最初に紹介した、「ある動物は大事にされるのに、ほかの動物は食べてしまってもいいのはなぜか」というのは、そうしたモヤモヤの一つです。ほかにもいくつか言及してきましたが、まだまだあります。どんなものが思い浮かぶでしょう?

軽めのやつで言えば、ペットに服を着せたり、毛をきれいにカットしたり、染めてみたり、というのはモヤモヤするかもしれません。それは飼い主の自己満足で、ペットが喜んでいるかどうかは分からない、というか、たぶん喜んでないのではないか……というモヤモヤです。


あるいは、たとえば魚をきれいに食べられなかったとき、「そんな食べ方ではお魚さんに悪いでしょう」と言われたことはないでしょうか。何となくそんな気もします。でも、もうそれらは死んでしまっているのだから、悪いも何もないのではないか……これもだいぶモヤモヤします。

肉食については、以前、「食べないと生きていけないのだからしょうがない」という意見を紹介しました。それが正しいかどうかはさておき、では「なくても人間は生きていけるが、動物を殺して手に入れているもの」はどうでしょうか。革製品(靴、カバン、財布、ジーパンのタグ……)です。

これらは、肉食用に殺したものの再利用ではなく、革製品用に殺しているものです(そうじゃないと、綺麗な皮は手に入りません)。そして、たんなる嗜好品なので、なくても人間は十分に生きていけます。これらについては、どのような理由で正当化できるでしょうか?


すこしヘビーな話題だったので、次は軽い話題を。動物園はどうでしょう? 確かに、野生状態と比べると、だいぶ束縛されてはいます。でも、動物園なら天敵はいないし、エサは用意してもらえるし、病気になったら診てもらえるし……。過酷な自然のなかで生きるより、はるかに恵まれた、幸せな生活をしていると言えないでしょうか?

ほかにも、ニュースで、日本がしているクジラ漁に外国が反対している、というのを耳にしたことはないでしょうか。クジラ漁は日本の伝統なのだから、ほかの文化に口出ししないで好きにさせてほしい、と感じたことがある人もいるでしょう。

しかし他方で、「伝統は守るべきだ」というなら、私たちはウシやブタを食べるのをやめたほうがよいでしょう。明治維新までは、日本人はウシやブタを食べていなかったのですから。「それとこれとは話が別だ」と思われたかもしれません。でも、一方の伝統は守るべきで、もう一方の伝統は捨てるべき、というのは、都合がよすぎはしないでしょうか?

以上は、人間と動物の関係のほんの一部です。人間と動物は、実にさまざまな仕方で交流をもっていますし、その交流のなかのいろいろな場面で、動物に対する私たち人間のふるまいが、倫理学の観点から、考えるべき問題として浮上してきます。

次回は、これらのなかから一つだけ、「動物を食べることが(なぜ)許されるのか」という問題を取り上げて、もう少し突っ込んで考えてみようと思います。

■参考文献とコメント:
マンガで学ぶ動物倫理:わたしたちは動物とどうつきあえばよいのか
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この連載で紹介した以外にも、動物倫理では数多くのことが問題になります。この本は、動物倫理ではどんなことが、どんなふうに問題になっているのかを、マンガと簡潔な解説とでかなり包括的に紹介してくれています。最後についているブックガイドや映画ガイドも充実。

動物を守りたい君へ
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新しい分野のことを知りたいとき、私はよく中高生向けの新書を読みます。名著がたくさんあるからです。これもそのひとつで、動物を道徳的に扱うということがもつ複雑さを、複雑なままに、しかしとても分かりやすく説明してくれています。

動物の権利
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残念ながら絶版ですが、図書館や古本屋、古書サイトなどで探してみてください。動物倫理を理論的にきちんと展開したもののなかではいちばん読みやすく、かつコンパクトにまとまっています。


【プロフィール】
村山達也、東北大学准教授(倫理学)。専門はフランス哲学、倫理学。若い頃は「三〇才以上のやつは信じるな」という言葉に共感していましたが、自分が三〇才を過ぎたら自分が信じられなくなってしまいました。最近はゆらゆら帝国と坂本慎太郎のアルバムをよく聴いています。

[バックナンバー]
お肉とペットはどう違う? 動物と倫理学
第1回 子イヌ、子ネコ、子ウシ、子パンダ。仲間外れは?

第2回 道徳と幸福について考える