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【つながりの経済学】第2回 東日本大震災と企業間のつながり

2016/04/19 09:56

第2回 東日本大震災と企業間のつながり

前回は、我々人間だけでなく、企業も様々なつながりの中で活動していることについてお話ししました。それでは、この企業間のつながりは、実際の企業の活動にどのように影響しているのでしょうか。

企業間のつながりが経済活動に大きな影響を持つことが示された例として、東日本大震災が挙げられます。

震災で直接被災した企業は日本全体の企業数に比べるとわずかだったにもかかわらず、被災企業から部品を買っている企業の生産が止まり、さらにその企業の部品を買っている企業の生産が止まり…と取引のつながりを通じて連鎖的にショックが波及していき、たとえば自動車メーカーが部品の調達ができず、国内の全車両工場で生産を停止せざるを得なくなった事例などはご記憶に新しいのではないでしょうか。

これは企業間の取引関係は、取引先の取引先の取引先の…と探索していくと、どの企業にでもすぐに到達してしまうという性質を持っている、いわゆるスモールワールド・ネットワークとよばれるものであったことから生じたものといえます。(図2は実際の企業の取引関係の例です)。


図2ある都道府県の企業間のつながりの関係。色は産業を示しており、産業をまたいで企業同士がとても複雑につながり合っていることがわかる。

このように、企業間のつながりは、先の震災の際には、被害を波及させてしまうという悪い影響が大きく取り上げられましたが、実は、企業間のつながりが復旧を促進した面もあったことが知られています。

実際に、我々の研究では、被災地の外に取引先を多く持つ企業は、震災直後から操業再開までの期間がその他の企業に比べて短いことが示されています。さらに、このような企業は、取引先からの支援を多く受けていることも同時にわかっており、震災直後に被災地の外の取引先からの支援によって、被災企業は復旧を早めることができたのです。

このように、震災のような自然災害時において、企業間のつながりは被害を波及させるような負の側面と、復旧を早める正の側面の両面から、企業の活動に大きく影響するといえるということがわかってきています。

このような企業間のつながりは、人間関係と同様に、企業同士の信頼関係が非常に重要であることが知られています。平常時においては地理的に近いこと(ご近所さんですね)が、つながりを広げ、また深めることに寄与していることが知られています。産業クラスター政策のように、企業を特定地域に集めて振興するような政策は、このような要因が背景の一つにあるわけです。

また、震災のような非常時に復旧支援を行うことなども当然信頼関係の醸成に役立っていると考えられます。

次回は震災直後のような非常時でなく、平常時につながりが企業活動にどのような影響を与えているのかについてお話ししたいと思います。

次回は「第3回 つながりと企業の行動」です。
配信日程:4月20日(水) 予定


【プロフィール】
東北大学大学院経済学研究科准教授 中島 賢太郎(なかじま けんたろう)
2003年東京大学経済学部卒業、2008年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)
東北大学、一橋大学を経て、2011年4月より現職。
専門は空間経済学・都市経済学・経済発展論。これらの分野を中心に、データを用いた統計的実証研究を行っている。