戻る

仙台放送NEWS

検索


「津波被災地の幽霊を小学生から研究者まで考える」第2回 死に一番敏感な大学生とタクシーの幽霊

東北学院大学

2016/06/14 10:04

第2回 死に一番敏感な大学生とタクシーの幽霊

副タイトルを見てうん?とクエスチョンマークがつくかもしれない。大学生という20歳前後の学生は意気軒昂で死から最も遠い存在なのではないか。20年ほど前に心理学者が講演で語っていたことを今日のように覚えているけど、実は20歳前後の学生が一番死について敏感であると言われた。

死に一番遠いように見えて遠い分頭でっかちで考えてしまうからである。高齢者になればなるほど、身近で近親者や友人の死を見ているためにあまり考えないそうだ。



「被災地、タクシーに乗る幽霊 東北学院大生が卒論に」、この見出しでどれだけの人がアッと思うだろう(詳しくは、こちらから)。

この卒論を書いたのも20歳を若干超えたみなさんと同世代の学生(工藤優花)であった。朝日デジタル版に掲載され、3日間でFacebookで2万件近いシェアがなされたりTwitter上でも夥しい数の投稿があげられた。興味本位もありつつ、意外なほど好意的に受け止められた。

特に若い人たちが反応を示した。単純に読んだだけでなく、シェアしたりリツートしたことは自分が読んだ興味関心を他の人と“共有”したいという願望に支えられていた。普通死は孤独に静かに考えるものだが、この感覚をあるリアイティをもって受け止めたいと思ったのである。当初の宮城版での紙の新聞のタイトルは「幽霊おって 震災の死者思う」という見出しであった。


(朝日新聞社・石橋記者の取材を受ける工藤優花(左)と金菱(右))

全国版で転載される時にすっぽり震災の死者の重みがそぎ落とされたのである。しかもデジタル版は無料購読できるものの途中までの講読しかできずそれをより一層助長させた。

私たちのプロジェクトではかなり真面目に津波の死者の問題に取り組んで調査してきた。元々石巻地域で幽霊現象が目撃されていることについてはうわさも含めて夥しい数の報告がネット上にあがっていました。

幽霊現象を調べたゼミの工藤さんは、現地に赴くわけですが、とりとめもない話で終わったり、現地の方に怒鳴られたり、また聞きなど情報が不確かでした。それでも粘り強く調査を重ねていくと、明らかに不確かな情報と異なってタクシードライバーの事象がかなりリアルな形で体験されていることがわかってきました。そこで指導教官である金菱はタクシーのドライバーさんに絞って事例を集めてみるとことを指示しました。

そのレポートが本にまとまって卒論として世に出たわけですが、後者の見出しと前者のそれとはずいぶん印象が異なっていた。

つまり、前者はオカルト的な読者の反応が先だって、一部科学的な論争にまで発展した(「大丈夫か、教授!?」と科学的観点から批判する立場が確かに存在する)。



本のなかからひとつエピソードをあげてみよう(『呼び覚まされる霊性の震災学』1章に所収)。

タクシー回送中に手を挙げている青年を発見してタクシーをとめると、マスクをした男性が乗車してきたが、恰好が冬の装いで、ドライバーが目的地を尋ねると、「彼女は元気だろうか?」と応えてきたので、知り合いだったかなと思い、「どこかでお会いしたことありましたっけ?」と聞き返すと、「彼女は…」と言い、気づくと姿は無く、男性が座っていたところには、リボンが付いた小さな箱が置かれてあった。ドライバーは未だにその箱を開けることなく、彼女へのプレゼントだと思われるそれを、常にタクシー内で保管している。



これからも手を挙げてタクシーを待っている人がいたら乗せるし、たとえまた同じようなことがあっても、途中で降ろしたりなんてことはしないよとインタビューに答えている。そして、いつかプレゼントを返してあげたいそうだ。

当初信じられない思いで恐怖に引きつっていたドライバーも、良い思い出として家族や同僚にも話さず自分のなかだけで大切に抱いている。

朝日新聞の記事(デジタル版)のあと、BuzzFeedさんによるYAHOO!ニュースが配信されると、紙面の限られる新聞(及び半分しか読むことができないデジタル版)の情報を補足する形で長めの記事となり、ネット上に「幽霊とちゃかしていた自分がはずかしかった」という書き込みがあるなど、少しは幽霊の背景にある重たさや大切さが伝わるようになった
詳しくはこちらから)。

私たちは大学生の社会調査をとおして、世の中の被災地におけるイメージを少しは覆したことになります。これは大学の知が社会に開かれる瞬間でもあったわけです。

次回は「第3回 被災地に関係ない人でも呼び覚まされる霊性」
配信日程:6月15日(水) 予定


【プロフィール②】
東北学院大学教養学部地域構想学科・教授
金菱 清(かねびし・きよし)
http://kanabun.soms9005.com/research/book

西洋かぶれの社会学にあきあきしていたところ、日本のフィールドワークから理論を紡ぎだす鳥越皓之先生に出会い、その後現在の研究へ続く「環境社会学」という分野を学ぶ。1999年卒業、そのまま大学院へ進学する。自転車で伊丹空港周辺をまわり当時日本最大規模の「不法占拠」地域のフィールドデータを探し求める。2001年博士課程でなぜか数理社会学の髙坂健次先生に拾ってもらい、数学も統計学もできなかったが、厳しくも温かく育ててもらう。(続く)