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お肉とペットはどう違う? 動物と倫理学「第4回 お肉は(なぜ)食べてよいのか?」

東北大学

2016/10/28 09:56

第4回 お肉は(なぜ)食べてよいのか?

肉食は許されるのか?――と言われて思い浮かぶのは、いわゆる菜食主義者、ベジタリアンの人たちです。そして、ベジタリアンと聞いてすぐに言いたくなるのは、「いのちを大切にしないといけないなら、植物も食べられないはずでは?」ということでしょう。それなのに植物(野菜)は食べてよいというのは、偽善ではないか、というわけです。

でも、ベジタリアンの人たちは、ほんとうに「いのちを大切にしないといけないから」肉を食べないのでしょうか? 実は、そういう理由でベジタリアンになる人はごく少数です。では、ベジタリアンの人たちは、どのような理由で肉を食べないのでしょうか?


(実際にはベジタリアンになる理由はいろいろです。また、ベジタリアンにもいろいろなグレードがあり、魚貝は食べる、卵は食べる、乳製品は食べる……、など、いろいろです。以下の議論にはベジタリアンの多くが賛成してくれるでしょうが、必ずしも全員ではないでしょう。その点は、ご了承ください。)

私たちの多くは肉を食べるわけですが、ここで、その私たち自身について考えてみましょう。多くのベジタリアンと同じように、私たちも動物と植物とで扱いを変えています。生きている植物をみじん切りにする人と、生きている動物をみじん切りにする人、あるいは、育てていた花を枯れさせた人と、育てていたペットを飢え死にさせた人とで、周りからの評価はまったく異なるはずです。さて、そうした違いはなぜ生まれるのでしょうか?

それはおそらく、動物は痛みや恐怖を感じるが、植物は感じていないからです。もちろん、動物が痛みを感じているかどうか、そして植物が痛みを感じていないかどうか、究極のところは分かりません。でもそんなことをいったら、あなたが痛みを感じているかどうかも、究極のところ、私には分かりません。常識的に――あるいは、生物学的に――考えて、それを否定するのは馬鹿げています。少なくとも普段の私たちは、動物は苦痛や恐怖を感じる、と考えて暮らしているでしょう。

さて、次に、そうした、苦痛や恐怖を感じることができるものを前にしたとき、それが何であれ、むやみにそれを痛めつけたり怖がらせたりしてはいけない、というのも、私たちの多くが認めていることです。たんに自分の楽しみのために、イヌをいじめる人、ネコをいじめる人、鳥をいじめる人、ネズミをいじめる人……。これは、明らかに悪い人です。

まとめれば、第一に、動物は苦痛や恐怖を感じているということ、そして第二に、たんに楽しみのためだけにそれらを動物に味わわせるのは悪いことだということ、この二つは認めてもらえると思います。そして、この二つさえ認めてもらえれば話は簡単です。肉食は道徳的に悪であって、おいしいからという理由だけで正当化することはできません。

グレーゾーンは残ります(ペットや動物園など)。でも、革製品や、化粧品のための動物実験は、同じような理由で、道徳的に悪だ、ということになるでしょう。

もちろん、みなさんの頭には、たくさんの疑問、というか反論が浮かんでいることと思います。次回は、それらのうちの代表的なものを取り上げて、検討していきましょう。


■参考文献とコメント:
マンガで学ぶ動物倫理:わたしたちは動物とどうつきあえばよいのか
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この連載で紹介した以外にも、動物倫理では数多くのことが問題になります。この本は、動物倫理ではどんなことが、どんなふうに問題になっているのかを、マンガと簡潔な解説とでかなり包括的に紹介してくれています。最後についているブックガイドや映画ガイドも充実。

動物を守りたい君へ
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新しい分野のことを知りたいとき、私はよく中高生向けの新書を読みます。名著がたくさんあるからです。これもそのひとつで、動物を道徳的に扱うということがもつ複雑さを、複雑なままに、しかしとても分かりやすく説明してくれています。

動物の権利
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残念ながら絶版ですが、図書館や古本屋、古書サイトなどで探してみてください。動物倫理を理論的にきちんと展開したもののなかではいちばん読みやすく、かつコンパクトにまとまっています。

【プロフィール】
村山達也、東北大学准教授(倫理学)。専門はフランス哲学、倫理学。若い頃は「三〇才以上のやつは信じるな」という言葉に共感していましたが、自分が三〇才を過ぎたら自分が信じられなくなってしまいました。最近はゆらゆら帝国と坂本慎太郎

[バックナンバー]
お肉とペットはどう違う? 動物と倫理学
第1回 子イヌ、子ネコ、子ウシ、子パンダ。仲間外れは?

第2回 道徳と幸福について考える

第3回 動物について、倫理学の観点から問題になること